不動産訴訟

 土地、建物その他の不動産は、時と場所の如何を問わず、人間の社会生活の基本をなす不可欠の要素です。近世法思想において、その先がけとして自由な所有権の理念が生じたのは、中世封建制度の下にあった土地所有権の解放を目指したものであったし、現在における訴訟実務の上においても、日々生起する民事紛争のうちの相当部分が土地、建物その他の不動産をめぐって生じたいわゆる不動産訴訟です。このような歴史的、社会的事実が、人間の社会生活において、不動産がいかに大きな意義を持ち、いかに枢要な地位を占めているかを如実に物語っています。

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 民事訴訟の分野において、不動産訴訟すなわち土地、建物等の不動産に関連する紛争についての訴訟は、金銭の支払に関する訴訟と並んで、伝統的に民事訴訟全体の中で大きな比重を持ち、主要な地位を占めて来ました。後に詳述するように、土地建物を目的とする訴訟は、最近においては、第一審における民事訴訟の金新受件数のうち、ほぼ二〇パーセントを占めているのであって、このことは、不動産に関する法律関係が国民の日常生活にいかに密着した関係にあるかということの証左といえるでしょう。
 次に、一口に不動産訴訟といっても、その内容は、複雑多岐にわたります。以前から多く見られる伝統的な類型の訴訟を考えてみても、土地建物等の所有権の帰属をめぐる所有権確認その他の訴訟、登記に関して移転登記手続、抹消登記手続等を求め、あるいはこれに附随して行政庁に対し必要な許可申請手続を求める訴訟、土地建物の占有に関し、その明渡、引渡、建物収去ないし退去土地明渡等を求める訴訟、土地境界の確定を求める訴訟、借地権に関する訴訟等の請類型があり、その他土地建物等を目的とする抵当権、地上権、地役権等の所有権以外の権利を目的とする訴訟、共有物分割訴訟、地代、賃料の増減請求訴訟、抵当権に基づく短期賃貸借解除の訴訟等枚挙に暇がない。更に、広い意味で不動産に関連する訴訟としては、日照通風妨害、眺望阻官等を原因とする建物の建築差止訴訟、請負工事の瑕疵に基づく修補請求訴訟あるいはこれらに開運する損害賠償請求訴訟等があります。社会生活が複雑化、多様化するに従って、社会的な紛争の解決手段としての訴訟も分化し、専門化、技術化して来るという現象が、不動産訴訟の分野においても見ることができます。
 さて、このように、民事訴訟の分野で大きな比重を持ち、しかも複雑多岐な内容を持つ不動産訴訟について、これをそれぞれ類型化し、実務的な観点から、各類型の訴訟についての特性を考究し、整理することは、実務家にとって有意義なことであり、これが目的とするところでもあります。
 いわゆる不動産訴訟が、金銭の支払を目的とする訴訟とともに、いわば民事訴訟の双璧ともいうべき位置にあったことは、前述したとおりですが、司法統計月報年間集計表によれば、全国の地方裁判所、簡易裁判所での民事訴訟第一審新受件数中、土地建物を目的とする訴訟事件の数は、土地、建物を目的とする訴訟は、全地方裁判所の新受件数の二〇・六パーセントを占め、全簡易裁判所においては一八・一パーセントを占めており、両者を合わせた第一審受件数全体で見ると、一九・六パーセントとなります。すなわち、全体の約五分の一が、直接土地、建物を目的とする訴訟ということになります。
 一般民事調停事件の内訳を明らかにしなければ正確なところは判明しませんが、宅地建物調停は宅地建物の利用関係に関する紛争の調停であり、農事調停は農地等の利用関係に関する紛争の調停であるから、いずれにしても、一般調停中に含まれています。その他の不動産関係事件を考慮すれば、民事訴訟の場合における以上のパーセンテージを占めていることは疑いないところでしょう。
 更に、土地建物を目的とする訴訟を内容別に見てみると、建物を目的とする訴では、建物明渡(引渡を含む)に関する訴が圧倒的に多く、全体のほぼ四分の三を占めています。土地を目的とする訴では、土地登記に関するものがほぼ全体の半分、土地明渡(引渡を含む)がほぼ四分の一、次いで土地所有権に関するものがほぼ七分の一を占め、この三類型で土地を目的とする訴の九割弱を占めています。
 土地建物等の不動産が人間の社会生活に枢要な位置を占めており、その反映として、実務的に見ても、全民事訴訟の中で、不動産訴訟が相当の比率を占めていることは、今まで述べて来たところでありますが、この傾向は、今後とも大きな変化を見せることはないものと思われます。一時世を騒がした不動産ブームは去ったにしても、それは投機的取引の対象とされなくなったことを意味するだけであって、一般庶民の日常生活が土地建物等を不可欠の基盤として営まれざるを得ないという社会的事実を否定することができない以上、民事紛争としての不動産訴訟が不断に生起して来ることは避けられないからです。
 更に、今後の不動産訴訟の実質的展開を予測して見ると、不動産に限らない全般的な現象ではありますが、社会の技術化専門化に対応して、不動産訴訟の内容も、更に複雑多岐にわたる傾向を強めることでしょう。高層建築物の分譲、賃貸、管理等をめぐる法律問題等新たな法規制がなされ、また、これを必要とする従来見られなかった新たな論点を含む類型の訴訟が提起されようし、いわゆる私法の公法化の現象の進展に伴って、例えば国土利用計画あるいは都市再開発等の観点からの公法的規制の拡充により、不動産訴訟の分野においても、私法と公法との接点から生ずる新たな法律問題が生じて来るものと推測されます。実務家としては、不動産訴訟に対しても、従来論議の対象となって来た多くの問題に対して、判例、学説の進化に対応してこれを整理、再検討するとともに、新たに生じて来る前記のような諸問題についても、論議を深め、これを消化して実務に生かす努力が要求されるでしょう。

不動産

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