用地取得行政

 一般に公共事業とよばれる事業には、必ずといってよいほど公共用地の取得が必要です。したがって、公共事業を行なう公共機関には、必ず用地取得を業務とする行政部局があります。
 国土交通省を例にとれば、大臣官房のなかに公共用地課があり、これが公共用地取得に関する情報の集中と調整を行なっているほかに、河川局、道路局、都市局、住宅局などの関発関係課のなかに用地担当の班があり、また、計画局総務課のなかに土地収用法を扱う班があります。しかし、実際の用地取得業務を行なうのは、各地方建設局のなかにある用地部と、さらに各現場の工事事務所の用地課です。農林省では、農地局設計課のなかに用地班があり、地方農政局と現場事業所に用地課があります。
 また、鉄道建設公団、水資源開発公団、道路公団、住宅公団、国際空港建設公団などの公社・公団では、いずれも用地取得業務が重要な仕事であって、用地部をもっています。

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 用地業務は、建設工事に先行して行なわれる必要があり、その意味できわめて現場的色彩の強い業務ですが、同時に開発利益の制限という補償のもつ基本的な性格のために、中央政府による強い管理をも必要とする業務です。以前までは、各現場の特殊部隊とみなされていた用地業務が、昭和三十七年の「閣議決定要綱」の成立と前後して、次第に中央と末端との織の組織化を強めてきたのは、それなりの理由があってのことだったようです。
 しかし、新しい分野であるだけに、中央と末端との用地業務の配分については、まだ末成熟の部分があり、大量の用地業務の発生に対応する優秀な人材の養成や、各省庁間の横の調整という点になると、いまだに公式の機関がなく、まだまだ不十分というほかはありません。
 国と地方との関係において、中央の縦割り行政が、そのまま都道府県さらには市町村にまで持ち込まれている弊害は、なにも用地業務に限ったことではありませんが、地方団体では、道路・河川・住宅・土地改良などの事業が、それぞればらばらに用地取得を行なっている場合が多く、山形県などのように用地課を設けて、用地業務を一本化している例は、むしろ例外的に少数です。
 東京都では、建設局と住宅局と財務局に用地部があり、建設局と住宅局は、それぞれ自局の事業用地を独自に取得することになっています。また水道局、下水道局、交通局などの地方公営企業も独自に用地取得を行ない、その他の、たとえば都立学校用地や老人ホーム用地などを、財務局用地部が取得することになっています。ただし、すべての用地取得業務情報は、財務局用地部に集中され、とくに用地単価については、東京都財産価格審議会の審査を必ず要することになっています。
 しかし、東京都の場合にも、国土交通省などの中央機関の行なう用地取得については、東京都は公式にはいっさい関知せず、また区や市町村の行なう学校用地、道路・公園用地などの取得についても、都はその情勢を十分に把握していません。そのために、近接する区域で、同時期に取得された用地買収単価が、起業者によって異なる場合もみられたのです。
 なお前述に述べた収用委員会は、教育委員会や公安委員会などと同様に、都道府県ごとに設置される行政委員会ですが、その事務局が、しばしば、土木部管理課のなかに置かれています。収用委員会と行政機関とは、なるべく、互いに独立していることが望ましく、この意味では、県営事業に関する収用案件の審理の事務を、土木部管理課が管掌するという現状は、好ましいものとはいえません。
 市町村になると、比較的大きな市の水道などの地方公営企業のなかにある用地課を除けば、用地に関する特定部局をもたず、管財課や土木課管理係などの職員が、必要に応じて用地取得に当たるという場合が多いようです。
 以上は、比較的純粋な意味での公共機関の用地取得業務ですが、このほかに、電源開発株式会社や九つの電力会社、さらには私鉄などの行なう用地取得も、土地収用法の上では公共用地の取得として扱われることが可能です。さらに最近では、都市の再開発に関していわゆる民間デベロッパーにも土地収用権を認めようという動きが出ています。
 最近、政府はこれらの民間企業の用地取得業務も、土地収用法による事業認定を受けるように極力指導しており、将来は、公共用地行政の範囲を、単に公共機関の用地取得から、より広範なものに広げていかなければならないかもしれません。
 このほかにも、地方団体が条例で設置する開発公社・住宅公社・住宅協会など、土地収用法の範囲外の用地取得機関があり、また、かなり大きな公団や都道府県でも、用地取得に、民間の宅地建物取引業者をブローカーとして使っている場合がありますが、このへんまでくると、公共用地の取得行政の方針はかなりあいまいなものになってきます。
 土地収用法にもとづく用地取得の手続きについては、前述に述べましたが、公共用地の圧倒的大部分は、任意契約によって取得されています。また、最終的に土地収用法による収用の形をとるものでも、最初は任意買収による手続きがとられるのが一般です。
 任意契約による用地の取得には、起業者側からみて、普通、つぎのような手続きが必要です。
 事業説明会(事業の目的・性格などの説明)。用地説明会(補償方針などの説明)。測量(境界確定を含みます)。登記所などの調査(登記所、税務署などで、土地建物に関する権利関係、課税状態などを調査します)。鑑定依頼(標準地を選定して、不動産鑑定士に地価評価を依頼します)。各筆評価(標準地の鑑定結果をもとに、各筆ごとの評価を行ないます)。物件調査(建物、立木などの物件を調査し、目録をつくります)。通損補償算定(建物については移築工法と歩掛り単価、立木については補償方法と単価、営業補償についても補償方法と単価、その他の補償については単価を算定します)。協議。契約。登記。
 これらの手続きを順次踏んで、契約、登記に至るまでには、予期せぬ種々の問題も発生し、問題の数が多く複雑であるほど、取得の手続きには、当然、時間がかかることになりますが、すべてがおおむね順調に運んだ場合でも、事業説明会から登記までには二〇ヵ月程度を要するのが普通です。したがって、単一年度の予算範囲には収まらないわけです。

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