用地買収で生ずる損失に対する補償

 公共用地を取得しようとするとき、取得の対象となる土地は、普通、従前からなんらかの形で使用されている土地です。そして公共事業の場合、土地に対しては、更地とみなしてその正常な取引価格を支払うのですから、たとえば、土地の上に家屋が建っていたり、果樹園がつくられていたりすれば、家屋なり果樹なりを他の場所に移すに必要な経費が必要になります。これらの経費を通常生ずる損失とよび、土地の買収費に加えて補償されます。
 通常生ずる損失に対する補償にはつぎのようなものがあります。
 建物の移転料、動産の移転料、仮住居等の使用に要する費用、家賃減収補償、借家人に対する補償、改葬費の補償、祭し料、移転雑費、立木の移植補償、用材林の伐採補償、薪炭林の伐採補償、果樹等の収穫樹の伐採補償、竹林の補償、営業廃止の補償、営業休止の補償、営業規模縮小の補償、農業廃止の補償、農業休止の補償、農業の経営規模縮小の補償、漁業廃止の補償、漁業休止の補償、漁業の経営規模縮小の補償、残地補償、立毛補償、養殖物補償、特産物補償、隣接土地に関する工事費の補償、少数残存者補償、離職者補償など。
 これらの補償のすべてについて説明を加えることは、やや煩雑にすぎるので、以下では、とくに重要と思われるいくつかの点に限って説明を加えることにしましょう。

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 ダム、道路、鉄道など一般の公共土木事業では、起業者は事業用地を取得したいのであって、その上に建っている建物を必要としない場合が普通です。しかも起業者にとって必要のない建物でも、なんらかが方法によって事業用地外に移転すれば、まだまだ使用に耐える場合が少なくありません。そこで公共用地の取得に際しては、事業用地はそれを更地とみなして買収し、その上の建物については、移転に要する費用を支払って、所有者に引き取ってもらうのが一般的です。公共用地の取得に際して家屋が買収されることは稀であると考えてよいわけです。わが国の家屋が多く移転の容易な木造であることを利用し、補償総額を最小限に押えようとする思想が顕在化した、とみることもできましょう。
 閣議決定要綱の条文をみてみましょう。
 第二四条 土地等の取得又は土地等の使用に係る土地等に建物等で取得せず、又は使用しないものがあるときは、当該建物等を通常妥当と認められる移転先に通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償するものとする。この場合において、建物等が分割されることとなり、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、当該建物等の所有者の請求により、当該建物等の全部を移転するのに要する費用を補償するものとする。
 建物等の移転に伴い建築基準法その他の法令の規定に基づき必要とされる施設の改善に要する費用は、補償しないものとする。
 第二五条 建物等を移転することが著しく困難であるとき、又は建物等を移転することによって従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、当該建物等の所有者の請求により、当該建物等を取得するものとする。
 第二六条 建物等を移転させるものとして第一四条の規定により算定した補償額が算定した当該建物等の正常な取引価格を越えるときは、当該建物等を取得することができるものとする。
 以上の条文の基本的な考え方、すなわち、移転実費と建物評価額とをくらべて、その小なる方を補償額とするのです。
 しかし、この考え方にはいくつかの問題があります。第一に、評価額の補償では、古い住宅に代わるべき住宅の取得が困難になることです。被補償者が企業体であるならば、推定再建築費と評価額との差額は、毎年の減価償却によって積み立てられているはずですが、一般個人の住宅の場合には、減価償却の積み立てがないのがむしろ一般的であり、したがって被補償者は、補償金に加えて減価償却積立金に相当する資金を、なんらかの方法によって調達しなければ、代わりの住宅を取得できません。実際には、評価額による補償ではなく移転実費を多少割り引いた金額を補償している場合が少なくありませんが、こうすると古い家ほど補償金が高いという一見常識に反する結果になります。
 この問題は、長期低利の融資によって解決すべきです。長期低利の融資があれば、それと補償金とを合わせて、新しい住宅の取得が可能になります。なお、法令による住宅の改善に対しても、長期低利の融資がなされるべきでしょう。
 第二の問題は、移転によって住宅の機能に変化が生ずるときです。たとえば、山桑による養蚕用の中二階のある山村の農家が水没して平野部に移るような場合、山桑がとれなくなれば中二階の蚕室は不用になります。一般にわが国の民家の構造は、その土地の風土や生産形態に強く結びついているものですから、起業者にとって必要がないという理由だけで、買収を拒否する態度は妥当とはいえないと思われます。要綱第二五条の規定は、そのような弊害を除くために設けられた規定ですが、この条項は実際には水車小屋などの特殊な建物にしか適用されていません。この条項は、もっと広く解釈されてしかるべきでしょう。

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