用地買収での立木補償

 事業用地として山林が買収される場合、森林公園用地など特殊な場合を除いて、一般に起業者にとって立木は必要ありません。しかも立木は、伐期到達樹であればもちろん、伐期末到達樹であっても、一定の市場価値をもっています。そこで、立木はその所有者に勝手に処分させ、ただ処分の時期を強制したことに伴い発生する損失についてだけ、起業者が補償しようというのが、立木補償の基本的な考え方です。
 伐採の時期を強制したことに伴い発生する損失には、つぎの二種類があります。一つは伐期到達樹であっても買叩きによる損失を受けることであり、一つは、伐期末到達樹で、伐期まで特てば当然えられたであろう収入が、商品価値の低い時点で売らなければならないために発生する損失です。

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 閣議決定要綱の第三〇条には、立木の伐採補償についてつぎのような規定があります。
 第三〇条 前条に掲げる土地に立木がある場合において、これを伐採することが相当であると認められるときは、次の各号に掲げる額を補償するものとする。
 伐期未到達木であって、市場価格のあるものについては、伐期における当該立木の前価額と現在から伐期までの収益の前価合計額との合計額から、当該立木の現在価格を控除した額。
 伐期未到達木であって市場価格のないものについては、それぞれ次に掲げる額。
 人口林については、現在までに要した経費の後価合計額から、現在までの収益の後価合計額を控除した額。
 天然生林については、伐期における当該立木の価格の前価額。
 多量の立木を一時に伐採することによって伐採搬出に通常要する費用が増加し、又は木材価格が低下すると認められるときは、当該増加額又は当該低下額に相当する額をもって補償するものとする。
 一読非常に難解な条文ですから、問題を前半と後半に分けて、簡単な説明を加えましょう。
 まず前半について、考察を容易にするためにつぎの仮定をおきましょう。山林を経営するに要する費用は、その造林時における費用だけとし、山林経営によってえられる所得は、伐期これらを考慮に入れ、さらに複利計算をとると式の形は複雑なものになります。
 つぎに要綱第三〇条後半では、ダムなどで多量の立木が一時に売りに出されることに伴う損失が扱われています。このうち費用の増大は、人夫の不足という形であらわれ、価格の低下は、売り急ぎに伴う買叩かれであると説明されています。しかし、山林の一部が水没した林業経営者について行なった聞きとり調査では、そのような損失はほとんどなかったとのことです。
 立木補償の単価は、起業者によってバラツキが大きく、また他の補償項目にくらべてやや甘すぎる補償事例が多いようです。たとえば、最近のあるダムでは、伐期到達の杉一本に対して数万円の補償金が支払われています。買叩かれによる損失がなければ、補償額ゼロとなるはずの伐期到達本に対してです。
 立木補償が甘くなる原因の一つは、実は補償算定方式自体のなかにもあります。
 多くの公共事業では、山林素地の買収を前提として立木伐採補償が必要になります。そして山林素地の買収額は、平均年間収益の資本還元額と算定されるのが妥当であり、実際にもそれに近い形で算定されています。そうすると、補償金の支払い時期から伐期までの年間平均収益は、すでに土地買収費のなかで支払いずみで、立木の現在価格を算定すると、年間の収益について補償の二重払いが生ずることになります。この二重払いを避けようとすれば、算定される補償額から差し引くか、あるいは算定される費用後価に加えるべきでしょう。
 とくにダムの場合には立木補償の総額が大きく、しかもその大部分が少数の山地主の手に帰してしまうので、立木補償の算定法には再検討が必要ではないかと思われます。

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