関連公共事業

 関連公共事業という言葉は比較的新しいものであり、その概念は十分に成熟しているといえません。公共補償に関連して、公共事業の充実が必要であるとの主張を行なったのは、前出公共用地審議会答申が最初ですから、まずその考え方を引用しておきましょう。
 「大規模な公共事業の施行は、その行なわれる地域の経済・社会構造に著しい影響を与え、これに対応するための既存公共施設の再編、新たな公共施設の整備、さらには当該地域の再建整備のための諸事業の推進などの問題を生じさせる。
 特に、その事業による利益がもっぱら他の地域に及び、直接その事業を施行する地域にもたらされない大規模なダム事業などの施行に当たっては、この基準による公共補償のほかに、その地域の開発ないし振興、地域住民の生活再建の見地から、関連諸施策の実施を要求される事例が多い。
 このような関連諸施設に対する要求のよってくるところは、一般的には、大規模な公共事業の施行が往々にして地域社会の従前の均衡を破り、地域住民の生活環境に著しい変化を引きおこすこと、特に、事業が後進的な地域で施行される場合には、当該事業による施設が機能を発揮することによって、他の地域との格差が一層拡大する懸念がもたれる場合が多いこと、これに対処するためには、地域開発的配慮、ないし住民の生活再建の配慮が具体的な施策の形で示されなければならない場合が多いこと、事業を施行する地域の所在する地方公共団体が大規模な公共事業の施行に際して、自らの振興を図り、あるいは予測される発展の障害に対処するために必要な諸事業を実施するための財政的負担能力に欠ける場合が多いこと等にあると思われる。
 これらの関連諸施策は、公共補償による合理的な機能回復の範囲をこえるものであるので、起業者の負担とするのは連当てないが、これを放置することが社会公平の観点からみて著しく不適切な場合がある。したがって、便乗的要求と認められるものを除き、関連事業として施行することが社会的妥当性をもつものについては、国、地方公共団体等が、公共補償とは別個に、地元に対する総合的配慮のもとになんらかの推薦を諸ずる必要がある。
 特に、大規模な公共事業の施行によりその周辺の地域の発展が阻害されるおそれがある場合、または地域の開発、ないし振興の方向の転換が余儀なくされると認められる場合には、関連公共事業の施行を図ることが必要である。
 そのため具体的な措置としては、関連公共事業を所管する関係省庁等において、予算執行にあたり関連公共事業を優先的に施行するように配慮するとともに、さらには、関連公共事業推進についての調整を行なうために一定の財源を留保すること、地方公共団体に対して特別の財政援助措置を行なうことなど、十分な推薦を講ずるよう検討すべきである」
 この答申では、主としてダム事業を想定し、公共事業によってその周辺地域の発展が阻害される場合に、その影響を除去するに必要な公共事業を関連公共事業と考えています。

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 ところが、この答申とは独立に、大規模な住宅団地の造成事業において、関連公共事業という言葉が使われています。たとえば、新住宅市街地開発法第四三条には、
 「国及び地方公共団体は、新住宅市街地開発事業の施行に関連して必要となる公共施設及び公益施設の整備に努めるものとする」とあります。ここでいわれる公共施設、公益施設というのは、新注事業の区域内で行なわれるものを除いたものであり、たとえば、区域外の河川改修、道路整備などです。新注事業より小さい規模の、たとえば公営住宅団地造成事業などでは、小・中学校の建設が重要な関連公共事業に数えられています。また成田国際空港や筑波研究学園都市などでは、これらの施設と東京都心とを結ぶ鉄道・道路まで関連公共事業とよんでいます。
 このように、関連公共事業という言葉は、かなり広い意味で使われていますけれども、一応つぎのような形でこの言葉を定義しておきたいと思います。
 「大規模な公共事業の施行に伴って発生する損失のうち、その影響が事業地周辺の不特定多数に及ぶために一般補償基準要綱および公共補償基準要綱によっては損失補償が不可能なものについて、その損失の程度を緩和するために行なわれる公共事業」
 関連公共事業を前述のように定義するとすれば、関連公共事業の対象となる損失がどのようなものであるかを明らかにしなければなりません。この種の損失は、ダム事業のように人口を減少させる事業の場合と、住宅団地事業のように人口を増加させる事業の場合とでは性質が異なるので、それぞれに考えてみましょう。
 大規模な公共事業は一般的には有効需要を剔出する効果をもつといわれますが、ダムの周辺地域だけを考えれば長期的には有効需要を減少させます。大規模なダムが建設される場合には、その地域の人口と農地面積に大きな影響を与えます。
 たとえば湯田ダムでは、岩手県湯田町全人口の二〇%、耕地面積の二二%が減少しました。長野ダムでは、福井県和泉村全人口の四七%、耕地面積の七〇%が減少しました。牧尾ダムでは、長野県王滝村の全人口の三四%、耕地面積の四一%が減少しました。御母衣ダムでは、岐阜県荘川村の全人口の三三%、耕地面積の三五%が減少しました。
 これらの人口・農地の減少を根拠に、周辺残存者あるいは地元町村に補償を行なうことは、現行制度のもとでは不可能です。しかし、これら人口・農地の減少は、その地域全体の有効需要を低下させ、有効需要の低下は、その地域の二次、三次産業を衰退させてさらに人口の減少をすすめる可能性があります。そこで、その地域に有効需要を生み出すようななんらかの公共事業が必要になるわけです。
 ダムができることによって人口が減少してしまうと、その地域に対するその後の公共投資が行なわれにくくなります。たとえば小学校の校舎を鉄筋コンクリートに建てかえる事業を考えると、他の条件が同じならば、学童数三五〇人の地区の学校の方を学童数三〇〇人の地区の学校よりも優先するのが合理的ですし、実際にも各種の公共事業の採択順位は、人口の多い地区が優先されることが多いのです。ところが、この理論でいくと、ダムができる前には学学童が三五〇人であったのに、ダムによって学童数が一五〇人に減ってしまったような場合には、もともと三〇〇人であった地区よりも優先順位が悪くなってしまいます。
 そこで、たとえば五〇年先の全国的な公共投資の水準を想定して、その水準まで公共施設の整備を先行しておくことは、理由のないことではありません。
 町村財政への影響を内容から分類すると、移転に伴う普通税収入の減少、工事期間中の一時的な財政需要の増加、の二つに分けられます。
 人口が減少すれば当然住民税が減り、また長途、宅地、建物が減少すれば固定資産税も減少します。しかし、一般的には人口の減少によって財政需要も減少し、またダム付近に発電所がつくられることが多いですから、発送電施設からの固定資産税、貯水池からの固定資産税など普通税収入の減少分を補って余りある税収が上がる場合が多いのです。地方税制度における大規模償却資産に関する特例や、固定資産税と国有資産等所在市町村交付金との格差など、地元町村が不満とする点は少なくありませんが、これらは税制内の問題であり、これを関連公共事業の必要性の根拠とすることはむずかしいようです。
 住宅団地に関連しては、つぎの問題があります。
 大規模な住宅団地の造成が行なわれると、その地区の雨水の流出形態が変化し、地区外の河川の改修が必要になります。河川改修は、地方自治体の任務ですから、それに要する費用の一部を前述の「公共補償基準要綱」第一九条によって住宅団地造成事業者に負担させるとしても、住宅団地以外の土地の土地利用形態の変化も想定に入れて、根本的な改修を行なうことが経済的に合理的です。
 住宅団地造成事業がなかったとすれば、この河川改修をもっと遅らせてあるいは徐々に行なうことも可能であったのですから、住宅団地造成事業によって河川改修を急がなければならなかったことを一種の損失と考え、損失を軽減するために、十分な河川改修予算を国が自治体につけてやることには十分な根拠があります。
 大ぜいの人口が急激に流入してくれば、それに伴って当然各種の財政需要が発生します。その典型的な例が小・中学校の建設です。しか良住宅団地にはいる人々の所得は必ずしも高いものではありませんから人口流入に体う税収増は、人口流入に伴う財政需要に連くおよばないのが一般的です。
 そこで最近では、学校建設自体は、住宅団地造成の施行者が住宅建設と同時に行ない、これを比較的安い価格で町村に売り渡し、一方国は当該町村に対して補助金と起債を優先的に認め、町村は起債分をたとえば一五年年賦で償還するといった形がとられるようになっています。しかし、このような形をとっても地元町村へ過大な負担をかけることになる揚合が多いのです。
 住宅団地の場合には、必要となる関連公共事業の種類と規模は比較的明確で、ただ費用分担の形が問題となります。これに対してダムの場合には、必要な関連公共事業の種類と規模がまず問題になり、それと平行して費用分担の問題が出てきます。したがって両者は同じ関連公共事業とよばれながら、かなり異なった観念であるということができましょう。

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