建築生産とは

 建築生産とは、あまり一般には使われない言葉である。これは、一般社会では、建築の設計と施工という二つの活動のことと理解されている。すなわち、一般社会では設計者が設計をし、施工業者が施工をするものだという認識を持ち、その各々は独立した活動として把握されている。この二つの活動を連続して、あるいは統合して考えるための言葉がないということは、そういった概念が薄いか、あるいはそんな言葉がなくても、別段何の不自由もなく問題にならないということかもしれない。建築生産という言葉は、主に設計や施工を統合して論議の対象にする研究者たちが使っている。
 建築生産に当たる言葉がないのは、英語の場合も同様である。設計はデザインであり、そして施工はコンストラクションである。そしてこの二つの活動をつなぐ言葉がない。時によっては、コンストラクションを建築生産と同じ意味で使うことはあるが、別な言葉は存在しない。また建築のプロダクションという表現があまり一般的ではないのは、日本語で建築の製造とは言わないのと同様である。この建築生産という言葉に関して、少々能書きを述べたのは、第一は一般の読者の方々に、この言葉に慣れて頂きたいためである。次いでは、日本では通常使われる建築生産の方式は、ほば固定的であるにもかかわらず、西欧では多様化していることを述べるためである。これは、設計や施工のそれぞれの中身にも関係はあるが、設計と施工との関係付けに重要性があり、両方をつなぐ概念を表す言葉が、説明上必要とされるからである。

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 西欧ではしばしば使われ、そのくせ日本では実現していなかった建築生産の方式として、CM方式がある。最近西欧では、特に設計と施工との関連性を論じたり、それに統合性を持たせるような生産方式が使われるようになり、これをデザイン・アンド・ビルド、時にはD+Bなどと表している。このことは、設計と施工とを統合することの重要性が認識されていることを示す。このことは日本では、研究者たちの間で関心を呼んでいる。
 建築の生産は、歴史的には極めて長期にわたって実施されてきたものである。これには地域による違いも時代による違いもかなりあり、実質的な生産方式には違いがあっても言葉は同じであるものや、逆に言葉は違っていても、内容はほとんど同じという場合もある。したがってこういった種類の記述には、言葉をくどくどと説明する必要があり、読みにくくなる恐れが大きい。極力混乱を避けるために、逐次定義付けを加えたり、また勝手に言葉を追って区別をしたりせざるを得ない。そこで聞き慣れないものも入り、また他の場所では通用しない言葉も出てきてしまう。昔のことに問しては、一般化している言葉が使えるのであまり問題を生じないが、現代に近いことがらの説明ではこれが発生する。その辺りをご容赦願いたいと思う。まずは基本から説明するために、西欧や日本の伝統的な方式から述べる。
 言葉使いのついでに触れるが、建築を追ることには施工という特殊な言葉を使い、製造という言葉は使わない。しかし建築をプレハブ化して建築の部品(エレメント)を工場などで追る場合には、ここでは製造という言葉を使う。製造された部品を建築現場に持ち込んで、組み立てる段階からこれを施工という名前で呼ぶ。建設産業の中でも、前者の製造は通産省の管轄であり、後者の施工は建設省の管轄である。これは余談であり、話の中では時々余談も入れる。
 西欧建築の先進国では、ある時代から建築生産は、設計と施工という二つの異なる活動の組み合わせから成り立つようになる。このある時代とはルネッサンスの前後という。こういった歴史的な背景などは後で説明をするが、西欧では設計と施工を完全に分離したものが伝統的な建築の生産方式である。
 西欧の文献などで伝統的なという表現をされるのは、この設計と施工のプロセスを分け、それを担当する人を、それぞれ設計者と施工者とに分けたものと理解してよい。
 一方日本では、こめ生産方式を分離発注方式と呼ぶ。その契約方式は分離契約方式ということになる。要するに建築の発注者である施主は、まず設計者と設計契約を結んで設計図書(図面と仕様書のことである)を作成させ、次いでその設計図書を基にして、施工者と施工契約を結んで建物の施工をやらせることになる。このように、施主が機能の異なる二者との間に、二種類の契約を結んで建築生産をすることを分離発注方式と呼ぶ。これが西欧では、伝統的な生産方式なのである。ここでは発注者のことを施主という名称で統一する。
 日本ではこの分離発注方式を伝統的な方式とは呼ばない。その理由は、日本の歴史的な伝統では、設計者と施工者は分離されていなかったからである。このことは明治維新までの日本の伝統であり、明治維新によって西欧の建築が日本に導入された時に、設計者(この場合にはアーキテクト、ならびに構造のエンジニア)と、施工者とは別人であるという概念が入ってきている。それまでの日本の伝統では、設計と施工はまとめて担当する「棟梁」という存在があった。棟梁は施主の意図に基づいて設計を行い、併せて施工を担当する者であった。日本における木造建築の伝統の上では、設計と施工を分離しないまま明治維新に至り、ここで鉄やコンクリートを使用する西欧建築の導入と共に、設計者と施工者とを分離する考え方が入って来ることになる。
 その後日本で、建築の施工を担当した者は総合請負業者であり、これが今日ゼネコン(ゼネラルコントラクターの略)と呼ばれるものである。日本のゼネコンは、大体がそれまでの棟梁が変身したものである。したがって棟梁の末裔であるゼネコンが、設計と施工を一手に引き受けることに問しては社会的な異論はなかったし、またゼネコン自体も西欧建築に問する設計機能を社内に増強して、設計・施工の一括受注(契約)をすることに別段の違和感を持だなかった。このように日本では、設計と施工とを分離しないで、一括して発注ないしは契約をするという生産方式が、むしろ伝統的であったものといえる。この点で、日本の建築の生産方式の伝統は西欧とは異なる。このことはかなり重要な問題である。すなわち日本では、デザイン・アンド・ビルドという概念には、別段の違和感を感じないだけでなく、むしろ日常的なものである。

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