建築中の建物の譲渡と対抗要件

建築中の建物といえども、取引または利用の目的物として社会観念上独立した建物としての効用を認められる限り、一個の建物として所有権の目的となり得るため、不動産登記法上の登記をなし得ることはいうまでもありません。逆に不動産と認められない程度の建物は、登記し得る建物に該当しないため、保存登記の対象とはなりません。したがって登記をなしてもその登記は無効です。不動産登記法上建築中の建物が独立の不動産と認められる段階について、判例による具体例によってその標準を示せば、次のとおりです。積極的な基準を示すものとしては、例えば「工事中ノ建物ト難己二屋根及周壁ヲ有シ土地ニ定着セル一個ノ建造物トシテ存在スルニ至ルヲ以テ足レリトシ床及天井ノ如キハ未タ之ヲ具ヘサルモ可ナリ」とするもの、「屋根瓦を葺き荒壁を塗り終り、床板を半分程張った程度」とするものなどがあります。消極的基準を示すものとしては、「木材ヲ組立土地ニ定著セシメ屋根ヲ茸キ上ケタル」程度では建物とはいえないとするもの、屋根、壁は備わっているが「単ニ切組ヲ済マシ降雨ヲ凌キ得ル程度ニ土居葺ヲ了リタリト云フニ止マリ、荒壁ノ仕事ニ着手シタルヤ否ヤモ的確ナラサル状態ニ在リタルモノニシテ住家トシテ尚未完成部分ノ存スルコト頗ル大ナルモノアリシ」ときは独立の建物ではないとするものなどがあります。建物か否かの判断の標準は、単に物理的構造のいかんによって判断すべきでなく、取引または利用の目的物として社会観念上独立した建物としての効用を有すると認むべきや否やによって決すべきす。

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不動産

建物とその登記との関連において、独立の建物が成立する時期と、独立の建物として登記が可能なる時期とは、同時であると解すべきです。また、建物の表示の登記の申請書には、建物の種類、建物の構造、および使用目的から床を必要とする建物については床面積を記載しなければならないとされていることから床を必要とする住宅については、少なくとも床面積を確定し得る時期に達したことは建物の要件として必要ですが、天井や床を張ることは必ずしも建物の要件ではないとされます。建物の使用目的からみれば、例えば工場に使用する建物は床がなくとも建物となり得るため、床面積を確定し得る時期に達するという要件は必要ではありません。床面積を確定しうる時期に達したかどうかに求めるのも、建物か否かの具体的判断の基準を示すものとして注目すべきところです。
建築中の建物でも、建築過程のある段階で、独立の不動産と認められる程度のものであれば、登記は許されますが、不動産と認められない程度の建物は登記し得る建物に該当しないため、登記をしてもその登記は無効です。ところが、建築中の建物が譲渡された場合、これと取引関係に立つ第三者にとっては、最初の譲渡の時期と建物の建築の進行の程度が問題となり、その程度いかんによっては、譲渡人の保存登記ないしはその者から譲り受けた譲受人の移転登記の効力が問題となり、きわめて徴妙なしかも複雑な問題が提起されるに至ります。例えばAは建築中の建物をXに譲渡した。その後、Xが建物を完成せしめたが、Xが登記をしなかったので、Aが勝手に保存登記をして、その上にCのために抵当権を設定した場合、Yが競落したときには、Xは登記しなくてもYに対抗できるか。というような問題です。抵当権の実行による競落人Yと建物を完成させた譲受人との間の建物の所有権に関する争いです。ここでまず問題となるのは、もし、建築中の建物が独立の不動産と認められない程度のものであれば、XはAから単に動産を取得したにすぎず、それを完成せしめることによって、建物を原始取得することになり、また、譲渡人Aは一度も不動産たる建物の所有者にはならなかったために、無権利者として保存登記をしたことになり、したがって、XY間に対抗問題が生じず、Xは登記がなくともYに対抗することができます。この場合、Xが建物を新築したことになるため、建物新築による原始取得には対抗の問題を生じず、対抗のための登記を必要としないからです。このことは、譲受人X対競落人Yのような関係においてのみならず、A所有の建築中の建物を、Xが譲り受けた後完成し、Aが自己名義に保存登記をし、YがAからこれを譲り受けて移転登記をしたような場合にもいい得ることです。つまり、この場合、Yは無権利者Aからの譲受人であるため、同様にXY間に対抗問題は生じず、Xは、保存登記、移転登記の抹消を請求し得ます。判例もこれを認めています。これに対し、建築中の建物所有者AからXへの譲渡当時、建物といえる程度になっているような場合については、完成後の建物の譲愛について対抗要件としての登記を必要とするのと全く同様に、Xは建物所有権をAから承継したことになるため、民法一七七条に従いXは登記をしなければYに対抗することができません。判例もこれを承認しているし、学説も異論のないところです。この場合、Aが未登記のままで建物をX、Yに二重譲渡した場合には、Xの保存登記とYの保存登記の先後によっていずれが勝つかが決まり、また、AがXに譲渡した後、Aみずから保存登記をしてさらにYに譲渡した場合には、Yの移転登記とXの保存登記抹消、新保存登記の先後がその勝敗を決することになります。したがって、建築中の建物について取引関係に立つ第三者にとっては、最初の譲渡の時期と建物建築の進行の程度が重要な関心事となり、その程度のいかんによって有効か無効かというようにその効力が争われることになります。
以上述べてきたことを要約すると、次のようになります。
不動産と認められない程度の建築中の建物は、対抗要件としての登記を必要としないため、譲渡人がそのままそれを譲渡した後に保存登記をしても、その登記は無効です。したがって、その保存登記に基づきなされた所有権移転登記も無効です。
不動産と認められない程度の建築中の建物は、登記を必要としないため、譲受人がそれを完成させた場合、それは原始取得になるため、その所有権取得は登記がなくとも第三者に対抗できます。
建築中の建物でも不動産と認められる程度のものは、その移転について対抗要件として登記が必要です。したがって、それを譲り受けて完成させた者はみずから保存登記をしていないと、譲渡人がなした保存登記を取得した第三者に対抗することができません。

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