対抗要件

物権変動の対抗要件は、目的たる不動産について新たに権利関係を築かんとする第三者を保護すろため、より一般的にいえば取引安全のため、不動産に関する権利の状態、帰属を公示する機能を果たすものですが、公示手段(登記)には、立法政策として、物権変動の対抗要件としての役割と、成立要件ないし効力発生要件としての役割とのいずれかを果たさせることができます。民法は、前記のごとく不動産物権変動について登記をもって第三者に対する対抗要件としていますが、これはフランス民法の立法主義にならったものであって、ドイツ民法の成立要件主義ないし効力発生要件主義と著しい対照をなしています。つまり、ドイツ民法の立法主義は、公示手段であるところの登記をもって、物権変動の当事者の間で物権変動を成立せしめるための要件とするものであって、登記のない限り物権変動の効力は生じないとします。これに対し、フランス民法および日本の対抗要件主義は、公示手段たる登記がなくとも、当事者の間では物権変動は有効に成立するとこれを認め、ただ第三者に対してこれを主張するための要件であるという法律構成をとるものです。したがって、このような対抗要件が完備されるときには、物権変動の実質関係を対外的に主張し得る効力を生じることは前述のとおりですが、対抗要件である以上、それはどこまでも有効に成立した実質関係を前提とするものであって、物権変動の実質関係がないにもかかわらず対抗要件(登記)だけが存在していても、対抗要件としての効力を生じる余地はありません。最判昭和三四年二月一二日も、「不動産につき実質上所有権を有せず、登記簿上所有者として表示されているにすぎない者は、実体上の所有権を取得した者に対して、登記の欠陥を主張することはできない」と述べ、「真正なる不動産の所有者は、所有権にもとづき、登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記を請求することができる」と判示しています。

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不動産

対抗できないという意味は、効力が全然発生しないという意味とも異なります。民法は前述のごとく対抗要件主義をとっているため、当事者間において、登記を具備することが、物権変動の効力発生と法規上直接的に結びつくことはなく、物権変動の効果は、法律行為ないし法律の規定によって完全に発生します。判例は、この理を認め、「移転登記原因が適法である以上は、たとえ登記手続に欠陥があって登記が抹消せられたとしても、その目的たる土地の所有権は、当事者の関係においては譲受人に移転する」と判示し、また、抵当権についても、「抵当権の登記はその権利を第三者に対抗するの条件たるに過ぎざれば、末登記の抵当権といえども、その対抗力をもたない点を除いて、特別の規定なき限り、既登記の抵当権と同様の効力を有するものと解すべきであって、未登記の抵当権も既登記の抵当権と同じく之を実行することができる」と述べています。登記がなければ物権変動の効果を主張することはできませんが、無効の場合と異なって、第三者のほうで物権変動の効力を承認したときは、それが有効なものとして認められます。その結果、例えば建物の賃借人甲が建物の買受人乙の所有権取得を承認してあらためてこれを乙から賃借したときは、甲は乙に対し、その建物所有権の取得につき登記の欠陥を主張し得ないことになります。
当事者間では有効ですが第三者にはこれを対抗できない、といっても、これを堀り下げて吟味するとその理論構成、特に一七六条の意思主義との統一的説明は、それほど簡単ではありません。つまり、一七六条の規定によれば、たとえ登記がなくとも甲乙間では物権変動の効力の発生が認められるため、甲の所有権は乙に移転し甲は無権利者になるはずですが、それにもかかわらず、その甲から後に丙が二重に買い受け、登記を具備することによって所有権の取得が認められるのはどうしてでしょうか。、元来無権利者からはなにものも取得できないというべきではないか、という疑問が提起されます。この物権変動論の難関たる二重譲渡の理論構成につき、学説は、これまで一七六条と一七七条との間に論理的統一性を有する解釈論を樹立せんと様々な苦慮してきましたが、まだ定説がないといえます。そして、次に紹介するように、諸学説においては、二重譲渡の理論構成と「対抗スルコトヲ得ス」の解釈論とが一体として論じられています。
債権的効果説では甲から乙に不動産が譲渡されても、登記がなければ当事者間においてさえ物権変動の効力は発生せず、単に債権的効果を生じるにすぎない、と解されます。二重譲渡については、甲乙間に売買があっても乙が登記をしない間は物権変動の効力が生じなく、甲は無権利者にならないわけで、当該不動産を丙に売り渡すことが可能だということになります。しかし、民法一七六条は、意思表示だけで物権変動の効力が生じる旨を規定し、一七七条も登記を効力発生要件とせず対抗要件と規定していることは前述のとおりであって、この債権的効果説は、明らかに民法が明記する基本原則と抵触することになります。また、第三者のほうから登記なき物権変動の効力を承認することを、理論的に封することになります。
相対的無効説では登記がなくても、当事者の間では完全に物権変動の効力を生じるが、第三者に対する関係では物権変動の効力が初めから生じない、と解されます。したがって、丙に対する関係では早乙間の所有権譲渡の効力が生じないため、甲は依然として所有権者と認められ、その所有不動産を丙に譲渡することができる、という理論構成をとります。関係的所有権説、つまり、譲渡人甲が当事者たる譲受人乙に対する内部関係においては無権利者ですが、第三者に対する外部関係においては、なお物権、関係的所有権を保有していると解する説も、同類の見解とみられます。しかし、このように物権変動が相対的ないし関係的な効力しかもたないと解することは、物権が、債権の対人的、相対的効力に対して、対世的効力を有する点にその特質があるとされているにもかかわらず、その物権の特質を否定することになります。のみならず、第三者に対して無効なものが、第三者の承認によって有効になるという理論構成も、必ずしも説得的ではありません。
不完全物権変動説では登記のない限り甲乙間では物権変動は不完全にしか効力を生じず、甲は完全な無権利者とはなりません。したがって、甲はなお丙に対して所有権を譲渡することができると説きます。この説は、登記がなくとも、物権変動が当事者間および第三者に対する関係においてその効力を生じることは認めますが、それが不完全であると解する点に特徴があります。不完全物権変動説によれば、不完全な物権変動によって譲受人も不完全な物権しか取得できないことになり、不完全な物権変動が登記によって完全な物権変動に変わることになりますが、物権の排他性、一七六条の意思主義との関連においてやはり論理的一貫性に欠け、不完全な物権を認めること自体、民法体系の基本構造を崩すことになることはいなめません。論者は、登記を具備してはじめて物権の排他性が認められるといいますが、対抗要件主義の法理構成と矛盾します。
第三者主張説では二つに分かれ、否認権説では登記がなくても当事者および第三者に対する関係において完全に物件変動を生じますが、登記がない場合に第三者がこれに対して否認する権利を一七七条によって認められると解します。そして、この否認権の行使によって、物権変動はその第三者に対してはじめから効力を生じなかったものと解せられ、それにより第二譲受人への譲渡も法的に可能となると考えられます。否認権説に対しては、第三者丙が甲乙間の物権変動を否認するという特別の積極的な意思表示を必要とすることは妥当でなく、丙が甲乙間に物権変動を生じたことを知らないときなど説明しがたい、という批判が加えられています。否認権説は、否認権の行使といっても明示的である必要はなく、また相手方ある意思表示たることを要しないと反論していますが、このような非難を免れるため、否認権行使という積極的構成を避けた修正説すなわち反対事実主張説が展開されています。
反対事実主張説では第三者の主張は、必ずしも登記欠陥の積極的主張であることを必要とせず、当事者間の物権変動と反対の事実ないし両立しない事実の主張でよいとされ、このような反対事実の主張によって、物権変動は第三者との関係では効力がなかったものとされる、と解するものです。
登記法定証拠説では登記をもって、内容上両立し得ない物権変動についていずれを優先させるべきか、いずれが先になされたかを証明するための法定証拠であると解すべきであって、一七七案はかような法定証拠を与えた現定であるとみます。この説によれば、甲から乙への譲渡行為が先であっても、丙の登記が早ければ、裁判官はこの法定証拠を認めた一七七条の拘束を受け、丙への譲渡行為が先であると事実認定しなければならず、その結果丙が甲から所有権を取得し、それによって甲は無権利者となり、乙はなんらの物権も取得しないと説明されます。このような法定証拠説は、実体法上、二重譲渡の場合の紛争解決基準としてはいずれの譲渡行為が先であったかをみて、これによって決定するという考えを前提にすることになります。よって、その論理的帰結として、二重譲渡の場合に乙、丙とも未登記の段階では、先に譲り受けた乙が勝つという結論を認めることになり、この点で未登記の段階では双方優劣つけがたいとするこれまでの判例、多数説の立場と異なってくることが問題とされています。

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