解除と登記

民法では、解除権の生じる場合として、「契約」「又ハ法律ノ規定ニ依リ当事者ノ一方カ解除権ヲ有スルトキ」と定めており、前者を約定解除、後者を法定解除と呼んでいます。このほかに、当事者が契約によって解除をなすこと、つまり既存の契約において解除権をあらかじめ留保する約定解除と異なって、既存の契約の解消そのものを目的とする契約を締結することが認められており、これを合意解除、解除契約と呼んでいます。契約の履行として物権の移転がなされ、その後契約が解除されたことにより物権の復帰的変動があった場合、これを第三者に対抗するために登記を要するか、の問題を考察するに当たって、法定解除と合意解除とは本質的に異なるものを含んでおり、別個に論じなければならないと思われます。

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不動産

法定解除の場合、学説はかなりの多様性を示していますが、おおよそ次の三説に代表されます。
第一説、解除の効果について直接効果説を採り、解除された契約自体から生じた法律効果が遡及的に消滅することを認めます。当該契約により物権の移転を生じたときは解除によって物権は当然に復帰します。このことは、民法が物権の変動につき有因主義を採ることの論理的帰結です。もっとも民法五四五条一項但書により、解除前に物権の移転を受けた第三者は保護されますが、それがためには対抗要件を備えておかなければなりません。解除後の第三取得者と解除者との関係は、あたかも二重譲渡の場合と同しく対抗要件の問題として解決されるべきであり、先に登記を備えた者が優先します。
第二説、解除の効果として直接効果説を採り、この遡及効に基づいて原状回復義務が生じます。ただし、すでに給付を受けていた者の負う原状回復義務は債権的効力をもつにとどまり物権的効力をもつものではありません。このことは、物権行為の無因性ないし独自性を認めることに基づきます。この意味で、民法五四五条一項但書は当然のことを注意的に規定したにすぎません。解除と物権の第三取得者ないし解除者との関係については前説と同じく、解除前に物権の移転を受けて対抗要件を備えた者は五四五条一項但書によって保護されます。また、解除による物権の復帰は登記なしには解除後に取引をした第三者に対抗することを得ません。
第三説、解除の効果について間接効果説を採ります。したがって、債権関係は契約が解除せられてもなお存続し、解除は、未履行の債務については履行を拒み得る抗弁権を生じ、既履行のものについては新たな返還請求権を発生させるにすぎません。ゆえに、解除そのものによって第三者の物権取得を当然妨げることはなく、五四五条一項但書は注意規定とみるべきです。解除者と物権の第三取得者との関係は、解除前においては、解除があっても有効に存在する第三取得者への物権の移転と、この物権変動を否定する前提に立つことなく、解除によって生じた返還請求権の行使によって物権は文字どおり解除当事者間で解除者に復帰します。その復帰的変動との競合という形になるため、解除における第三者保護の問題ではなく、二重譲渡の場合と同じく対抗問題となります。解除後においては、対抗問題として処理されることは当然です。
以上の諸説から知り得ることは、解除の効果について、直接効果説を妥当とするか間接効果説を妥当とするか、換言すれば、解除の効果に遡及効を認めるか否か、および、物権行為の独自性ないし無因性を認めるがこれを否定するか、が解除と登記の問題、特に解除前の第三取得者との関係を考えるに当たって、重要な理論構成の差異を導くということです。
第一説は直接効果説に立ち、解除による遡及的契約の消滅を肯定するゆえに五四五条一項但書に重要な意義を認め、解除前の契約目的物の物権の第三取得者は、まさにこの規定による第三者保護の対象として取扱われます。民法の解釈上解除の効果に関していずれの説によるぺきかは、それ自体大きな問題であって従来から深く論じられてきたところです。前述のように、第一説では解除前の第三取得者を第三者保護の問題としてとらえますが、第三取得者がこの保護を受けるためには対抗要件を備えなければならないものとしています。ということは、第三取得者が移転登記を経ない間に解除者が抹消回復の登記をなせば解除者が勝つということであり、第三者保護の問題として構成しながら実質はいずれか先に対抗要件を備えたものが優先するという対抗問題としてこれを処理しているにほかなりません。仮に第三者保護として徹底するならば、解除前の第三取得者は登記なくして解除者からの追及から保護されるべきであり、そのことは、解除者がさきに登記を備えた場合と第三取得者、解除者とともに登記を備えていない場合とを問わないとすべきです。この説が、第三者保護を受けるための要件として対抗要件の具備を要求していることは、その理論的構成にもかかわらず、第三者保護の問題と対抗問題とを混同しているとの避難を免れないと思われます。この説では解除に遡及効を認める結果、売買を例にとれば、解除により目的物の権利は買主に移転しなかったことになると説いています。しかし、この説でも、解除後の第三取得者と売主との関係を対抗問題としてとらえることから知れるように、目的物の所有権は初めから全く移転しなかったのではなく、そこに解除による物権の買主からの復帰的変動を考えていることは明らかです。このことを物権変動の有因性と結合させて時間的に遡及させて、目的物の所有権は買主に移転しなかったのと同様の状態が生じるといっているにすぎません。しかし、物権変動特に特定物の所有権移転において、債権契約成立時に即時所有権が移転するとすることが当事者の一般的意識に合致しないものとすれば、契約解除と同時に所有権がいきなり復帰するとすることもおかしいのであり、前者において、物権行為の独自性ないし無因性を否定しつつも所有権移転時期をなんらかの形式的行為にかからしめようとの努力が今日なされていることを考え合わすと、後者においても、解除による返還請求権を行使したときはじめて所有権が復帰すると構成すべきです。
第二説は、直接効果説に立ちつつも、ドイツ民法流に物権行為と債権行為を峻別することにより、解除そのものは債権的効果を生じるにとどまり解除によって当然には物権は復帰せず、返還請求権に基づいて物権復帰のための物権契約のなされたときこれが生じるものとします。そうだとすれば、その論理的帰結として、解除前の第三者と解除者との関係は五四五条一項但書の第三者保護の問題ではなく、対抗問題として把握しなければなりません。それにもかかわらず、この説が、同規定をもって第三取得者保護の基礎としていることに、第一説と同じく、第三者保護の問題と対抗問題との混同がみられるのです。また、民法の解釈として、物権行為の独自性ないし無因性を肯定することができるかという点も大いに疑問なしとしません。物権行為を要式行為として不要式の債権行為と峻別することをしない民法では、両者を厳格に区別する実益はなく、そのような理解の上に立っても、物権移転の時期を登記、引渡し、代金支払いなど、なんらかの形式的行為にかからしめて理論構成することは可能なのです。さらに、ドイツ民法において、解除に関し直接効果説が通説となっていることは、同法が物権行為に関して無因説を採っていることと理論上密接な関係があり、日本の学者が直接効果説を多く採ることはドイツ流の物権行為論の無批判的継受の結果であって、独自性否認ないし有因性を認める以上、直接効果説は当然放棄さるべきもの、との論もなされているのです。つまり、解除の効果に関して遡及効を否定し、解除時までに生じた物権変動は有効に存在し、返還請求権が行使されたとき解除者へ物権が復帰的に移転します。したがって、第三取得者への物権の移転とこの物権の復帰的移転とは互いに登記なくしては対抗し得ない関係に立つのであり、その理は第三取得者への物権移転が解除前であれ解除後であれ変わるものではない、とする第三説が最も妥当な構成であると考えられます。もっとも、第三取得者の主観的態様を考慮しなければならないとすれば、第三説によるときは解除の前後を問わず画一的に処理することとなるとして疑間を投ずる論者もあります。しかし、論者のいう画一的とは、解除前のものであれ解除後のそれであれ、第三取得者と解除者との関係を対抗問題としてとらえることを指すと思われますが、第三取得者と解除者との優劣を決するとぎに第三取得者の主観的態様を考慮に入れることは、第一説のごとき解除前を第三者保護解除後を対抗問題として構成する立場を採ったとしても、そのこと自体と直接の問題はなく、したがってまた、第三説の欠陥ともなり得なません。そして今日では、背信的悪意者は民法一七七条にいわゆる第三者から排除されるとする判例が確立し、学説も大方の賛成を得ていることは周知のところです。約定解除の場合は、これまで法定解除について述べたところと同様に考えてさしつかえません。ただし、解除権の留保をあらかじめ登記したときは、後の物権取得者に、解除による契約の遡及的消滅を対抗し得ることはいうまでもありません。

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