賃借人への移転登記前の賃料請求

乙の借地権が設定されている甲所有地を丙が譲り受けた場合に、丙は土地所有権取得について登記がなくても、乙に対して地代の請求または解約の申入れを行なうことができるでしょうか。このような場合、乙はその借地の貸主(所有者)に対し地代を支払わなければならないために、乙に対し地代の請求をする丙は借地の所有者でなければなりません。民法一七七条は物権変動を第三者に対抗するためには登記が必要であると定めています。そしてこの第三者とは、無制限にすべての第三者をさすのではなくて、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に限ると解されていますが、乙がかかる第三者に該当するかどうかが問題になります。この問題は、民法一七七条が適用される場合はどのような場合か、いわゆる対抗問題をどのような内容のものとしてとらえるべきかの問題です。特殊な対抗問題が生じる原因は、物権の変動は公示がたくともその効力を生じること。しかし、その効力を第三者に主張するためには公示を必要とするという矛盾する二つの規定があることにあります。したがって、対抗問題の範囲は、当該物権変動が第三者に対抗するために公示が必要とされるような物権変動であるかということと、当該第三者が、物権変動の効力を主張するために登記が必要とされる第三者であるかという、二つの側面から規定されることになるのです。

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有名な明治四一年一二月一五日の二つの大審院民事連合部判決が、物権変動原因については無制限説、第三者については制限説をとって以来、対抗問題は変動原因に関する問題を全くぬきにして、もっぱら第三者の範囲の問題に集中されてきました。つまり連合部判決は第三者の範囲について「登記欠缺を主張する正当の利益を有する者」に限るという基準を明示したのですが、学説は判例のこの見解を根本的に是認して、第三者の範囲について判例の基準をそのまま採用する説、さらにその基準を理論的に精密化しようとする諸説の展開をみることとなります。しかし、一般に登記というものが有する機能は種々であり、また物権変動の当事者および第三者の登記をめぐる利害ならびにそれについての法的規制、社会的評価は場合によって一様ではありません。したがって、種々の内容をもち、種々の法的また社会的評価を受けるべき物権変動について、第三者の範囲を決定するために「登記の欠缺を主張する正当の利益」あるいはこれと同様な極度に抽象化された基準をもってしては、区別されるべきものが区別されず、諾説の間に理論構成および実際上の結論において差異を生ぜしめることとなります。特に「対抗問題」の意味からして物権変動原因の範囲との関連において解明されるべぎ第三者の範囲の問題が変動原因を捨象して決定されるとき、捨象されたはずの変動原因の間題が形を変えて第三者の範囲の問題にはいってくる結果となり、対抗問題、第三者の範囲の問題は理論的にもあいまいなものとなるのです。もちろん判例は、このような問題を含む抽象的な基準を立てつつも、具体的な利益考量を自由に行ない、処理に徹して実際的には妥当な結論を導き出してきたのであり、第三者の範囲確立に関する諸説の並立、不統一状態も影響して、その抽象的基準は今日まで長い生命を雑持してきているのです。
学説をその結論からみると賃借人は貨料請求、解約申入れの関係においても、第三者に該当するという説と反対説とに分かれています。しかし、その結論に至る理論構成については特に対抗問題の理解の差異から、対立する結論を採る学説相互間においてはもちろん、同じ結論の学説相互間でも必ずしも一致していません。
第三者該当説では判例が第三者の範囲について「登記欠缺を主張する正当の利益」を基準とし、その具体的適用としてこのような賃借人も「第三者」に該当するとしたことからしても、「対抗問題」特に「第三者」の範囲について判例と同じ基準を立てる学説および「当該不動産に関して有効な取引関係に立てる第三者」という基準を立てる学説がこれに属します。
同じく賃借人でも賃借権そのものの認否が問題である場合と、ここで問題としているような賃料請求、解約申入れの関係における場合とを特に区別せず、判例を引用して述べる説と、これに対し、この二つの場合を区別し、後者の場合は前者の場合のように賃借権を肯定すれば未登記譲受人の権利が存在し得なくなるというのではなく、不動産物権が移転したという事実の確実な証明の問題であり、従って、排他的な権利の状態を登記によって公示しようとする目的からいえば、ややずれたものともいい得ます。ただし、このような場合にも、登記なしには対抗し得ないとすることは、乙(賃借人)の立場を確実にするという。また別の説も、この二つの場合を区別し、賃借権内容の実現と賃料請求などの債権関係が不可分であり、取引関係を整理するため面著を一括して取扱うほうが妥当であり、また公示をしない物権変動者の側の責任も考慮して、第三者に該当すると述べています。特に判例もいうように、同一賃貸物が二重に譲渡され、後に第二の譲受人が所有権取得の登記をすることも考えられるため、登記を要求することによって賃借人の立場を確実にするという利益は否定できません。この賃借人の利益について、反対説は後述のように対抗問題、第三者の範囲についての異なる把握から、債権の準占有者に対する弁済によってカバーできるとして、ここでの賃借人は第三者に該当しないといいます。しかし、この登記要求についての賃借人の利益は、賃貸物の新所有者に対する関係での賃借人たる地位の承継、それは同時に新所有者における賃借人たる地位の承継であり、さらにその前提としての所有権の変動の有無にかかわるものであり、単なる不動産物権が移転したという事実の確実な証明の問題ではないという理由から、第三者該当説を採るものもあります。
第三者非該当説では、この結論を採る学説においても、その理論構成は一様ではありません。第三者とは、問題となる物権変動と両立し得ない権利関係に立つ者、言い換えれば、問題となっている物権変動が有効であるとすれば否認されざるを得ない権利を有する者であるとし、別の説では、物的支配を相争う相互関係に立ち、かつ登記に信頼して行動すべぎものと認められる者に限るとし、ここで問題としているような関係は、賃料請求、解約申入れなど賃貸借契約上の権利を行使しその義務を履行する関係であり、新所有者が賃借権の存立を認めたうえでのことであり、不動産上の物権的支配を相争うという関係は存在しません。したがって対抗の問題は生じず、かかる関係における賃借人は第三者に該当しないというのです。そして、第三者該当説がその理由とした賃貸物の二重譲渡によっていずれに賃料を支払うべきか決まらないという不合埋な結果については、このような賃借人の利益は債権の準占有者に対する弁済や供託によってカバーされ、これと賃借権そのものの認否が問題となる場合をはっきり区別します。そして二重譲渡により所有者が確定でぎないことによる不都合は、賃借人の賃料支払いに関してのみならず、不法行為者の損害賠償の支払いの場合にも生じ得ることであるにもかかわらず、第三者該当説が不法行為者は第三者に該当しないとすることの矛盾を指摘します。

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