不法占拠と登記

不法占拠という言葉は既成の六法的体系からみると極めて包括的概念であり、例えば他人の土地を勝手に占有している場合や賃貸借終了後に賃借人が退去しない場合、また被占有者が占拠された土地を回復請求する場合や損害賠償の請求をする場合など種々の場合を含んた内容において使われています。これらの諸場合に該当する最大公約数的な意味で不法占拠を概念規定すれば、正権原のない占有ということがいえます。不法占拠と登記の関係で従来問題とされてきた事例は次のような二つの場合です。(1)甲所有の不動産を譲り受けたがまだ移転登記をしていない乙が、その不動産を不法占拠している丙に対して明渡しを請求する場合、丙は乙の登記欠缺を主張し得るか。(2)甲の土地になんらの権限なしに建物を有する不法占拠者乙が、その建物を第三者丙に譲渡して移転登記をせず、乙名義の登記がある場合、甲は丙の登記欠缺を主張して画を建物の所有者と認めず、乙に対して建物取去、損害賠償を請求し得るか、という問題です。この二つの問題は、従来から民法一七七条の登記欠缺を主張しうる正当の利益を有する第三者の範囲の問題として判例、学説に おいてとらえられてきました。つまり、(1)の問題では、乙が不法占拠者丙に対して不動産の明渡しを請求し得るにはその不動産の所有者でなければなりません。しかも丙は物権変動の当事者以外の第三者であるため、かかる第三者に乙が自己の所有権を主張するためには登記が必要かどうか。(2)の問題では、甲が建物収去、損害賠償を主張すべき相手方は、不法占拠の原因をなす建物の所有者でなければなりません。乙は建物を再に譲渡したがその旨の登記がなされていません。甲は建物に関する物権変動については第三者ですが、乙は登記なしに甲に対し自己の所有権喪失を主張できるか、という形で問題とされたのです。

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かかる判例、学説のとらえ方の背後には、明治四一年一二月一五日の二つの大審院民事連合部判決が、民法一七七条の第三者の範囲を確定するに当たって、その物権変動原因については無制限説、第三者については制限説をとって以来、いわゆる対抗問題の理論が変動原因に関する問題を全くぬきにして、もっぱら第三者の範囲の問題に集中されてきたことが考えられます。すなわち、どのような物権変動の下で、その物権変動に関するどのような権利関係が争われているのかということは重視されず、なんらかの物権変動があり、その物権変動に起因して第三者との間に権利関係の争いがある場合をすべて、民法一七七条の問題としてとりこんでしまい得るような傾向の考え方が支配的となってくるのです。このような、すべての第三者を民法一七七条の適用下に置こうとする傾向は、前述の判例の第三者制限説とは逆に、第三者無制限説へ連なる一面をもっていますが、第三者無制限説は具体的事例における利益考量からしても妥当でないことは明らかであり、判例および判例の基本的方向を是認する学説は、前述の判例の打ち出した第三者の範囲確定の基準である登記欠缺を主張する正当の利益を有する第三者のより具体化、理論化に努めることとなります。このような制限説の方向に沿った描象的基準の具体化、理論化の中で、さらに民法一七七条の適用領域を限定しようとする対抗問題説の登場によって、ここで問題の不法占拠と登記を単に民法一七七条の第三者の範囲の問題としてとらえる考え方は、再検討を追られることになります。しかし、対抗問題説もその他の制限説も、待に(1)の問題については、第三者の範囲論としては結論は一致し、第三者論としてのとりあげ方自体についての検討は完全に行なわれたとはいえません。それは、対抗問題、第三者の範囲を、物権変動原因の問題を捨象した単に第三者の制限というきわめて抽象的レベルでとらえようとする考え方に、根本的な論理的原因があると考えられます。しかし反面、登記の有する機能はただ対抗問題が生じる場合の対抗力に限られず、もっと広い範囲で種々の機能が認められます。したがって、これら登記の有する諸機能の分析、それら諸機能を規制する制度の論理、その歴史的、社会的評価などの解明が伴わない限り、対抗問題の占める位置も具体的には明確となりません。かかる困難さを含む問題であるため、自由な利益考量をとおして個別的事例の中からその基準の具体化を可能ならしめる登記欠缺を主張する正当の利益を有する第三者というきわめて抽象的基準が、今日においてもなおその生命を維持し得たという事実をも注意されなければなりません。

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