滞納処分による差押と登記

滞納処分としての財産権の差押えというのは、換価処分の着手として収税官吏が、帯納者の特定財産の事実上または法律上の処分を禁止するための強制執行です。帯納処分の差押えの意義に関連して民事訴訟法と異なる点は、行政処分として差押えが行なわれることです。不動産の差押えは、差押調書を滞納者に送達することによって行なわれ、その効力は、差押調書の騰本が滞納者に送達されたときから生じるのです。不動産の差押えがなされると、税務署長は職権で登記を関係機関に嘱託するのです。この不動産差押えの登記は対抗要件です。差押えの効力は、滞納処分の差押えと民事上の強制執行の場合における差押えも、その性質は同じであるところから、民事訴訟法上の差押えと同じように国税徴収法上の差押えを解釈するのです。したがって、国税徴取法六八条で差押調書の謄本を交付するというのは、差押えを行なった事実、すなわち、差押えの効力が発生していることの証明を滞納者に手渡すだけということになり、民事訴訟法と同じたてまえに立っているのです。帯納処分による差押えの効力の基本は処分禁止の効力であるといわれ、差押が行なわれると帯納者は、国に対する関係においては、たとえ差押えの目的物である不動産を他に譲渡しても、その譲渡をもって国に対抗することはできません。また、他物権の設定によって、差押え財産の価値を滅少させるような行為においても同様です。しかし、差押えの効力の本来的なものは、国または公共団体が公売権を取得する点にあるのであって、処分禁止の効果は、その反射効であるといわねばなりません。

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不動産

滞納処分による差押えの場合に民法一七七条の対抗要件の適用が考えられていたか否かの問題ですが、最高裁は一般行政処分である農地買収処分は、国家が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであって、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものであるため、自作農創設特別措置法による農地買収処分については、民法一七七条は適用がないとしたにもかかわらず、滞納処分による差押については、民法一七七条の適用があるものと解すべきであると判示しました。滞納処分の場合に民法一七七条の適用を認めた理由は、民事上の強制執行による差押えと、その性質が本質的に同一であるという点を根拠としていますが、行政法学者の間では民法一七七条の適用を否定する意見があります。農地の買収について、一般私法上の取引関係を基盤とし、その取引の安全の保護を目的とする民法一七七条の規定の適用を否定した最高裁が、滞納処分による差押えに適用ありとする判決は、一見、矛盾するようです。しかし、この両者の本質を考察するならば、必ずしも矛盾するとはいえないのです。つまり、農地買収処分は、国が権力的手段をもって土地の権利そのものの取得を目的とする行政処分です。これに対して、滞納処分は、滞納者の不動産の売却によって租税債権の満足を得ようとするのであるため、その本質が異なるのです。今日、少なくとも租税滞納処分を農地買取と同一の意味で、権力的作用とみることは妥当でないと考えられます。
国の徴税処分は、国が公権力をもって私人の財産権を取り上げる手続であるため、一般私法上の不動産の取引関係とは、その性質を異にしています。したがって、租税債権による差押債権者である国は、民法一七七条にいうところの第三者には該当しないという行政法学者からの意見にも一理あります。しかし、租税債務者が第三者に譲渡したところの不動産に対し、国が租税債権に基づいて差押えを行なったような場合には、やはり私法上の債務名義による強制執行の場合と同じように取り扱って、民法一七七条に規定するところの対抗要件の原則に従って、解釈することが最も望ましいということです。租税債権といえども、一般私法上の債権とこれを区別しなければならない理由はないために、その保護についてもいささかも一般私法上の債権と異なるところがあってはならないはずです。このことは、国が登記のない不動産の譲受人の通常の不動産取引における場合と比較して、特に不利益を受けなければならないということにはならないからです。これに対して、租税の賦課処分は国または地方公共団体が公権力によって、一方的に納税義務者に対して、その義務を負担せしめる行為であって、私法上の取引関係とは全くその性質を異にするものであるため、私法上の物権変動における第三者に対する対抗要件を規定した民法一七七条は、かかる公法上の権利関係に属する租税の賦課処分については適用がないとする意見があります。租税滞納処分は、行政庁が私人の財産を差し押えて公売処分にゆだねる行為であって、国が権力的支配関係において、その公権力を発動して財産の所有者の意思いかんにかかわらず一方的に処分の効果を発生させるものであるとするならば、私法上の取引関係とは全く異なる法原理の上に成り立つものとなるため、民法一七七条の適用はないという意見は、一応は当然のことのように考えられないわけではありませんが、租税滞納処分にあっては、帯納者とその財産との間の権利関係があくまで基準とされるので、一般の行政処分には民法一七七条を適用しないという最高裁は、国の公権力によって不在地主もしくは大地主などから、その所有農地を強制的に買い上げるところの自作農創設特別措置法に基づく農地買取は、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするからもっぱら所有者とその農地との間の事実関係に依拠するのとは異なるのです。滞納処分は租税債権という公法上の債権に基づいて、納税者の財産を差し押え、これを公売処分にゆだねその代金をもって支払いに充当して、その強制的満足を得るという点において、一般私法上の債務名義による強制執行の場合と近似するものというべきであるため、民法一七七条の適用を肯定するのが妥当である、とするのが下級審の態度であり、諸判例はこぞって肯定しています。徴税のために国が私人間の売買に強制的に関与するにとどまり、本質的には民事上の強制執行に国が介入する場合と同様であるため、滞納処分における差押えによる公売処分の場合は、当然に民法一七七条の通用があるとするのが正当です。
租税滞納処分における差押えによる公売処分に対する民法一七七条の適用の有無についての最高裁の態度は、「国税処分においては、国は、その有する租税債権について、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権者がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものでない。それ故に、滞納処分による差押の関係においても、民法一七七条の適用があるものと解するのが相当である」と肯定の立場を明らかにしたのであるかように、滞納処分における差押債権者に対し民法一七七条の適用を肯定する立場が、確立した判例の立場であり、通説です。また、行政法学の立場からも同様の見解があり、これに対して、行政法学者からは、租税法律関係は国が権力的に行動する面を多分にもっているので、それを全体としても権力関係、公法関係であるという基盤から、判例理論に対して疑問がだされ民法一七七条の法意は通常の私人間における取引の安全の保護にあるとみて、適用を否定するのです。

不動産

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