登記の推定力

登記の記載には推定力があるといわれています。これを否定する見解はありません。そして、その推定力は実体関係と一致しない無効な登記の記載にも認められるということも問題がありません。民法には登記の推定力に関する明文の規定がありません。一方民法一八八条で占有の権利推定力を規定し、これが動産、不動産の区別なく適用されるたてまえになっています。そこで、登記の推定力を容認することは、当然不動産占有の推定力とその登記の推定力の衝突を意識せざるを得ず、登記の推定力を語るときに、民法一八八条の規定にひきずられる傾向が生じ、そのうえ明文の規定を欠くこともあってか、民法の解釈によって形成されてきた一見自明のようにみえます、この登記の推定力は、なお判然としない点を数多くもっています。学説は次のような理由によって、登記の記載に推定力を認めています。つまり登記は、不動産物権およびその変動の公示方法たる公簿であり、不動産登記法による厳格な手続要件の下で登記され、かつその記載自体の間に矛盾のないように仕組まれているため、推定力があるといいます。

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不動産

不動産登記簿は、事実の登記(裏題部の登記)と権利の登記(甲区、乙区の登記)からなります。登記の推定力は、事実の登記にも認められます。例えば表題部に記載された所有者も表示された不動産の所有者と推定されます。
権利の登記に、例えばAからBに売買を原因とする所有権移転登記が経由されている場合、Bが所有者である、もしくはBに所有権がある、という点に推定力があることについては判例、学説にほとんど異論がありません。しかし、さらにその登記原因にも推定力があるかどうかについては、争いがあります。登記原因、物権変動の態様おょび過程に推定力を認めない説は、登記が真実の物権変動の態様および過程に符合しない場合でも、現在の権利状態と一致している限り有効であるという理論を前提として論じているところからみると、要するに、登記の記載事項のうち、現在の権利状態の記載は真実の権利状態と符合する蓋然性が多いのですが、物権変動の態様と過程の記載は真実のそれと一致する蓋然性が少ないという点に推定を否定する実質的理由を見いだしているのではないかと思われます。しかし、登記の推定力は、登記が不動産物権の得喪変更を公示する公簿の記載であるがゆえに認められる、との前提に立つ限り、登記原因も登記簿上に記載される以上は、蓋然性の理論のみでその推定力を否定する根拠とはなし得ません。また、登記が制度として不動産物権変動の態様ならびに過程を如実に反映させることを理想とし、現在の権利状態のみでなくこれと一体となった登記原因の記載をも要求されているために、実体を反映する蓋然住は、登記原因にもあるといわざるを得ず、蓋然性の大小は蓋然性自体の否定とはなず、また登記原因における実体反映の蓋然性を完全に否定しさることにもなりません。
推定には、事実上の推定と法律上の推定とがあります。例えばXはある建物がYの所有であると主張し、Yはそれを否認したとします。登記簿上、AY間の売買を原因とするY名義の所有権移転登記があります。登記の推定を事実上の推定とした場合。事実上の推定とは、裁判官が証拠や間接事実からある事実もしくは権利が存在するとの心証を形成する作用で、自由心証に属することがらです。ゆえに建物の所有権の帰属に争いがある以上、一般原則どおりX側でYが建物の所有者であること、つまりYが建物所有権を取得した原因たる事実を主張、立証する責任を負います。ただ、登記簿の記載は有力な証拠として、AY間に売買の事実があった、もしくはYが現に建物を所有する、との心証を裁判官に形成させる一の資料となるにすぎません。よってYは裁判官のこのような心証に疑問を生じさせる程度のことを立証すれば不利益を免がれます。
登記の推定を法律上の推定とした場合。法律上の推定とは、法規が、ある事実あるときは他の事実もしくは権利ありと推定する場合です。まず、登記原因に推定を許容すれば、これは法律上の事実推定です。これによると、X側はYが建物所有権を取得した原因事実を主張、立証するかわりに、登記簿上AY間に売買がなされた旨の記載があると主張し、立証すると、真実AY間に売買がなされた事実が推定されます。そこでYは、その推定事実を覆えすためにはその前提事実たる登記の記載の不存在を立証するか、その記載にもかかわらず実は推定事実(売買)が不存在であるとか、無効もしくは消滅したことを主張し、立証する責任を負うに至ります。つまり、推定事実を覆えす面で挙証責任がYにあります。次に登記簿の現在の権利状態の記載に推定を認めると、それは法律上の権利推定です。これを許容するならば、Xは、Yが建物所有権を取得した原因事実を主張、立証することなしに、登記簿上Yが所有者と記載されていると主張し、立証さえすれば、Yが現在建物所有者であるとの権利状態が直接推定されることになるため、Y側では記載の不存在を立証するか、あるいはその推定権利状態を覆えさねばならず、そのためには、自己の所有権が不存在であることを立証する責任を負い、この理を純粋に貫くならばYのその証明は不可能となりますが、少なくともYは推定権利状態と相容れない権利状態の発生原因事実を主張し立証する責任を負うことになります。
登記の推定力は、このいずれの推定であるか学説上も争いのあるところです。通説は、民法一八八条の権利推定力と登記の推定力との関係について、登記ある不動産には登記に推定力を認め、その占有に民法一八八条の適用がないと解しています。不動産の権利表象機能は、占有より登記にこそあるというのがその理由です。このことは、学説が登記ある不動産の占有の権利推定力をいわば登記の推定力と入れ換える解釈をしていることであり、登記の推定力に占有の権利推定力と同等の価値、機能を与えていると解し得ます。

不動産

一筆の土地の一部/ 庭木・庭石と宅地売買/ 土地定着物の不動産としの取扱い/ 建築中の建物/ 建築中の建物の譲渡と対抗要件/ 建物の独立性/ 区分所有権/ 区分所有権の所有関係/ 区分所有者の権利義務/ 借地上の建物の売買と借地権/ 手付契約の解釈/ 違約手付との関係/ 解約手付による解除/ 無能力者との契約/ 表見代理/ 民法一〇九条の表見代理/ 民法一一〇条の表見代理/ 対抗要件/ 第三者の範囲/ 第三者の範囲制限/ 登記欠缺を主張できる第三者/ 解除と登記/ 取消しと登記/ 賃借人への移転登記前の賃料請求/ 不法占拠と登記/ 債権者の差押と登記/ 一般債権者による差押と登記/ 滞納処分による差押と登記/ 登記の推定力/ 仮登記のある不動産の売買/