仮登記のある不動産の売買

仮登記は、物権変動の対抗要件としての終局登記をなすべき形式的または実質的要件を欠く場合に、将来その要件が整った時にされるべき本登記のために、あらかじめその順位を保全する目的でされる予備的な登記です。不動産登記法は、登記を要する権利変動がすでに生じていながら、その登記申請に必要な登記手続上の条件が完備しない場合に行なわれる・いわゆる条件不備の仮登記と、当事者間にまだ登記を要する権利変動は生じていませんが、将来権利変動を生どるべき請求権が法律上発生じている場合に行なわれる・いわゆる請求権保全の仮登記の二種を規定するのみですが、このほかに学説、判例は、権利変動そのものが条件付きである場合の仮登記をも認めています。以上の三種の仮登記のうち、一号の仮登記は実務上これが認められる場合がいたって限られており、そのため実際にはもっぱら二号の仮登記が利用されることになります。ちなみに、この種の仮登記は、金銭消費貸借における債権者が債務者の不動産上の抵当権設定とあわせて、または単独にその不動産につき債務不履行を条件とする売買予約、代物弁済予約ないし代物弁済契約の仮登記をつけ、さらに同様な停止条件付賃借権の仮登記をつけて、貸金債権を担保する手段として利用することが多い。いずれにしろ、仮登記がつけられた不動産上の権利は、将来本登記をなし得べき実体的ないし形式的条件が熟せば本登記がなされることによって、仮登記後に当該不動産上に生じた一切の権利変動に対抗することができるわけですから、登記手続上権利保全のためのすこぶる強力な手段ということができ、反面、仮登記をめぐって第三者の利害に重大な影響を及ぼすことになるのです。

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不動産

ここでは仮登記ある不動産の売買という表題に即して、また問題検討の便宜をも考慮し、不動産の二重売買の場合を設定して、三当事者それぞれの間に生じる法律関係を検討していくことにします。その場合、売主甲が第一の買主乙と売買契約を締結したが、その履行前にさらに第二の買主丙に二重譲渡し、丙が所有権移転の仮登記を行なったという場合と、第一の買主丙が仮登記を付した後で、第二の買主乙が甲から二重譲渡を受けるという場合の二通りが考えられるので、前の場合を設例1、後の場合を設例2としておきます。
本来、売主は単に物の引渡しだけではなく、その物に関する権利を移転する義務を負います。しかも、移転を義務づけられた売主の財産権は合意された交換条件にかなったものでなければなりません。この意味において債務の本旨にかなった、契約された内容をもった、財産権を移転する義務を売主は負うのです、それに対応して債務の本旨にかなっていない財産の移転に対しては、買主には完全履行請求権が与えられることになります。
例のように、目的不動産に仮登記が付せられた場合、その仮登記に基づいて本登記がなされたときには、仮登記以後のすべての処分は、本登記に抵触する範囲内で遡及的に実質上無効とされます。もちろん仮登記自体は終局登記ではないから、仮登記ある不動産といえども、少なくとも履行期に仮登記に基づく本登記がなされていない限り、売主(甲)は買主(乙)に完全な所有権を移転することが可能ではありますが、仮登記が抹消されない限り、将来行なわれるであろうその本登記によって、乙の所有権取得が覆される可能性を秘めています。したがって履行の時点でこそ、甲・乙間に適法な所有権移転が行なわれ且つ登記がなされたとしても、仮登記が付着している限り、完全な所有権の移転とはいえません。つまり仮登記が抹消されない限り、甲は売主としての完全な所有権移転義務を履行したことにはならないのです。そこで乙は甲に対して仮登記の抹消を請求することが許されなくてはなりません。そしてこのように甲が乙に対して仮登記抹梢義務を負うべきことは、設例1の場合はもちろん、設例2の場合も同様と考えられます。二重売買における悪意の買主も登記欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者とされる以上、仮登記の存在を知り、または知り得べきであった第二の買主乙とても、設例1における善意の買主同様、完全なる所有権の移転を請求する 権利があるべきだからです。もっとも、甲の仮登記抹消義務の不履行に対する帰責の仕方、程度などについては、設例1と2とでは、乙の善意、悪意に従って区別されるべきです。まず、設例1の場合は、丙が仮登記に基づく本登記をなす以前に、乙は甲に対して仮登記の抹消を請求し、甲がそれに応じないときはもちろん、応じることができないときにも履行期の到来を待って甲の債務不履行責任が追及されます。設例2の場合は、買主乙は契約締結前にあらかじめ仮登記の存在を知ることができたのであるため、仮登記の抹消の不可能な場合もあることを予測すべきです。したがって甲に仮登記抹消義務があるとしても、抹消が不可能な場合には、乙は甲の抹消義務違反を理由として甲の債務不履行責任を追及することはできません。この場合は、他人の物の売買に準じて、甲の担保責任を問う以外にありません。もっとも、乙が仮登記の存在を知らずに甲と売買契約を締結したような場合には、賃借人の損害発生防止義務としての通知義務に準じて、甲は契約締結に際して乙に仮登記の存在を知らせる義務を負うべきです。この告知義務の怠慢によって、仮登記が存在ししかもその抹消が不可能であるにもかかわらず、乙が甲と売買契約を締結したとすれば、甲は合意された交換条件にかなっていない所有権について売買契約を結結したことに過失があったものとして債務不履行責任が帰責さるべきです。これに対して仮登記の抹消が必ずしも不可能ではないような場合や抹消を甲が保証したような場合に、甲が抹消しないときには、抹消義務違反として甲の債務不履行責任が追及されます。
判例は、当初、不動産の二重売買において、第二の買主(丙)ヘの登記移転によって、第一の買主(乙)ヘの債務は履行不能にはならないとしましたがその後、大正二年五月一二日の大審院判決は、これを改めて、売主の一方の買主(乙)に対する債務は、特別の事情のない限り、他の買主(丙)に対する所有権移転登記が完了した時に、履行不能になる、としました。以未、この考え方が踏襲され、今日に至っており学説も亦これを支持しています。そうすると、一方の買主(丙)が仮登記を経由したという場合には、あとで彼が仮登記に基づく本登記を行なえば、他方の買主(乙)がその間に移転登記を受けても対抗できないためそれは判例にいう「特別ノ事情に当たり、仮登記の時点から売主の債務の(乙に対する)履行不能が生じるのではないか、と思われますが、しかし判例はその点については消極的で、仮登記がなされたという事実だけでは履行不能はまだ生じない、という学説もこの判例を支持します。つまり仮登記は本登記の順位保全の効力しか有しないため、仮登記があっても他方の買主が売主から移転の本登記を受けることが可能であり、また必ずしも仮登記に基づいて本登記がなされるとは限らず、仮登記自体が抹消されることもあり得るのであり、さらにいえば、この買主が本登記を受け且つ一方の買主の仮登記を抹消するよう売主が努力する余地を残すことが望ましいというのです。しかし学説によっては、仮登記が抹消されず仮登記があとで本登記になおされたならば、他方の買主に(本)登記がなされても、その買主は確定的に所有権を失うことになるために、仮登記扶消の可能性がほとんどない場合には、仮登記の時点においてすでにこの買主に対する履行不能が生じたものと解すべきではないか、とする見解があります。この見解については仮登記の効力につき順位遡及説をとれば、仮登記後のいわゆる中間処分は、仮登記に基づく本登記までは、実質的に有効であるとされるため、それにもかかわらず仮登記の時から履行不能とすることにいささか抵抗を感じますが、買主(乙)の救済ないし販引関係の簡素化という見地からみると、取引の実情に即した見解というべきです。しかし、判例のいうように、抹消の可能性の有無にかかわらず丙の本登記までは乙に対する甲の履行不能が確定しないとすれば、抹消の可能性がない場合には、いずれ丙の本登記によって所有権を失うことを覚悟しながら、甲から所有権の移転を受けるか、丙の本登記による甲の履行不能の確定を捜然として待ちその間契約関係の進行を凍結するかしなければならないであろうからです。もっとも、売主に仮登記抹消義務があるとすれば、ほとんどの場合仮登記が抹消されない限り、甲は債務不履行の責めを免れないとみてよいであろうために、判例の説くように履行不能の確定を丙の仮登記に基づく本登記の時まで遅らせても、乙の救済に欠けるところはありません。

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