所有権移転の時期

不動産のような特定物の所有権移転の時期については、当車者間に移転時期につき合意があればそれに従います。かかる合意の存在しない場合はたして、いつ所有権が移転するか、という問題につき周知のごとく学説は鋭く対立しています。この点の概観を試みるとすれば、まず、通説は、いわゆる物権行為の独自性を否定することと関連して、物権移転を生じさせる契約がなされた時に、直ちに特定物の所有権の移転を生じると説きます。これに対して、物権行為の独自性を肯定する説にあっては、物権変動が生じるためには、債権関係を生ぜしめる債権的意思表示とは常に別個の物権的意思表示を必要とするとし、実際には、代金の支払い、目的物の引渡し、登記など外部的な物権移転の徴表のあった時に物権行為があり、物権の変動が行なわれると解されます。しかし、近時、物権行為独自性否定説、契約成立時説に対する物権行為独自性説、代金支払い、引渡し、登記時説、という図式的な理解に疑問を投げかける説が主張されています。つまり、物権の移転については物権行為を必要としませんが、移転時期に関しては、一般取引の当事者の意思からあるいは売買契約につきその有償性から、代金支払い、引渡し、登記などいずれかがあった時と解そうとします。これらとは別に、所有権移転時期の確定の問題は、外部的徴表の有無で決するのは、生硬で形式的理論であり、結果の衡平への適合以下の祝点から、所有権の帰属を認めるべきとする立場が見いだされます。さらに、所有権移転の時期を問題とすることは、現在ではあまり法律的意味をもつものとはいえず実益がないとする説も存在している。このような多岐にわたる学説の対立にもかかわらず、判例は依然として意思主義を貫き、契約成立時説を採っているように見受けられます。

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不動産

特定物の売買において、いつ、所有権が買主に移転するかにつき、これまでのところ、学説は物権行為の独自性を認めるか否かの問題との関連においてとらえ、その結果、物権行為独自性否定説は、契約成立時説を主張し、これに対し、物権行為独自性を肯定する立場からは、代金支払い、引渡し、登記時説を説くという形で対立しています。
物権行為独自性否定説、契約成立時説の場合、今日通説によれば、法律行為によって、当事者間に物権の変動を生じるには、二つの要件が備わらなければなりません。第一は、当事者が物権の変動を生じさせようとする意思表示をしたこと、第二は、目的物が現存、特定する物であり、かつ、当事者が物権変動を生じさせるだけの権限を有する等、物権の変動を生じる客観的な障害のないことです。判例は、当事者が究極において物権の変動を生じさせる法律行為をしたときは、原則として、その時に物権変動の効果を生じ、もし、その時に物権変動の効果を生じるのに支障があるときは、その要件の充たされた時に、当然に、物権の変動を生じるものとなし、ただ、当事者がこれと異なる意思表示をしたことが明かな場合にだけ、例外となるものと解釈しています。蓋し、意思主義に適するものであり、かつかような原則を採らないと、各場合の判断に困ることになるからです。取引界の慣行についても数十年に亙って判例法の行なわれてきた今日、これを覆すべきほど社会の取引慣行がこれと離れているものかどうか疑問であるばかりでなく判例のような一般的な原則をとることが、法律関係を明瞭にする長所を有すると考えるとされます。つまり当事者間で合意なき時、あっても不明確な時、契約成立時説は売買契約により、直ちに物権移転の効力を生じると解されますが、結局そのように解する最大の論拠は、数十年に亙って判例法の行なわれてきたところに求めていると考えられるのです。これに対し物権行為の独自性を認める立場から問題はどのように解されているのでしょうか。
物権行為独自性肯定説の場合、この説によれば、所有権がいつ、いかなる行為によって買主に移転するかは、実際の生活では、売主の側からする目的物の引渡、もしくは土地家屋の明渡、または買主の側からする代金の支払の時期と状態とによって決せられることが多いのであって、通常の場合には、目的物が特定しているからとて、単純な合意たる契約の成立だけで所有権が移転するとみることはできません。また不動産の売買について今日広く行われているところをみれば、売主と買主とが出会って登記手続を済ますと同時に代金を支払うことが多いのですが、この場合、移転登記手続とともに所有権の移転があるとみるのが妥当であって、その以前にはただ所有権移転の債務が成立しているにとどまると解すべきです。特定物の売買のごとき契約にあっても、通常の場合の解釈としては、合意だけで成立するところの売買契約によって物の所有権が当然に買主に移転するのではなくて、引渡や登記や代金の支払その他これに類する外部的な徴表を伴う行為があることによって初めて移転すると解されています。
このようにして、物権行為の独自性を認める学説からは、代金の支払い、引渡し、登記など外部的な物権移転の徴表行為によって、所有権が移転すると解され、その解釈を支える支柱は、社会の取引慣行、日常取引の実際との合致、にあると考えられます。かくのごとく、物権行為独自性否定、肯定両説の差異は具体的には、所有権移転時期の差異に帰着するといえますが、それでは両説のいずれが、所有権の移転時期の認定に関し、はたして妥当とされるかについては、今のところ、いずれの説にも、他を完全に制圧するほどの決手はなく、それぞれの説を内在的に検討しても、なお、それぞれ若干の欠点を有すると解されます。ただ、近時の研究で、通説の契約成立時説に反対する学説のほうが多数説ではないかとの指摘からもうかがわれるように、今日では、代金支払等時説がだいたいにおいて、量的に、有力に主張されてきているといえます。しかし代金支払等時説がすべて物権行為独自性を肯定したものというのではけっしてありません。現在では物権行為独自性否定説、契約成立時説、物権行為独自性肯定説、代金支払い、引渡し、登記時説という図式的理解自体問題視され反省されてきています。つまり、これまで学説の対立が、物権行為の独自性を認めるか否により生じてきたと説かれてきましたが、物権行為の独自性を認めるか否かということと、物権変動を生じる時期がいつか、ということとは合致する必要はなく、独自性否定説に立っても、代金の支払い、引渡し、登記などの時と解することが可能であるとの主張もなされるに至り、以後所有権の移転時期についてはまた物権行為の独自性とは別異に論じられるようになりました。その意味で、まずこの論争に対する決手の一つとして考えられるのは、社会一般の意識が、いつを所有権移転の時期と考えているかの点を重視する立場があります。それはむろん、かつての物権行為論争の反省、さらに判例、通説批判として主張されています。その結果、取引慣行を重要視するこの立場から、物権行為の独自性は否認されますが、ただ物権変動を生じる時期については、独自性肯定説と同様の結論を認め、後日なされる引渡、登記または代金支払のうち、いずれか先になされた時に移るとされます。この考えによれば、売買契約に包含されている物権的意思表示は、原則として、代金の支払いや引渡し、登記などを停止条件としてなされているとみることになります。
以上、学説の対立ある所有権移転時期の認定の問題はさらに、どれほど有益なのかということを問題とする見解があります。つまり、対第三者関係においては登記によって決せられ、対無権利者、不法行為者に対しては債権者代位権によってでも可能です。結局、所有権の帰属は当事者間だけで問題となりますが、その際重要なのは危険負担、果実収得権の帰属であり、これらについては自由に約定し得るし、またかかる特約の存在しない場合には、民法上所有権移転の問題とは別のこととして規定されているという理由から、売買における所有権移転時期を確定する実益はなく、しいていえば売買のプロセス開始前に完全に売主に属していた所有権は、売買のプロセス、売買契約、代金支払、引渡等のあいだの浮動状態を経て、随時的に移行し、このプロセスの完了とともに、完全に買主に属するに至ると主張せられます。つまり所有権の機能はある時期を境に一時に移転するのではなく、取引のプロセスに応じて分解され、なしくずしに移転すると理解すべきだとされます。ある時期を画するそれぞれの外部的徴表あるごとに、段階的に権利概念を分割して理解しようとするこの見解は、問題はありますが、現象の説明としてきわめて興味深いものがあります。
最近、所有権移転の時期は、代金支払いなどの外部的徴表の有無によってではなく、紛争当事者の利益の衡平を考慮し、物権的に保護さるべき当事者に所有権の帰属を認めるべきであり、その結果を得るために物権的合意の存在時期を適当に認定すればよいとし、どの時点で移転の合意があったとみるかは、現実意思の推測や取引慣行の実態からでなく、結果の衝平への適合以下で決定すべきとする見解が見いだされています。

不動産

所有権移転の時期/ 危険負担の意義/ 売主の義務と担保責任/ 他人の物の売買/ 瑕疵担保による損害賠償の範囲/ 瑕疵担保責任と賠償範囲/ 二重譲渡/ 履行不能による填補賠償額/ 売主名義のない不動産の登記/ 弁済の提供/ 同時履行の抗弁権/ 債務不履行による契約解除/ 履行遅滞の催告/ 解除の効果/ 解除と現状回復義務/ 契約の拘束力と事情変更の原則/ 事情変更の原則/ 不動産売買での保証人の責任/ 農地売買と知事の許可/ 農地売買の許可基準/ 農地売買許可と売買契約/