抵当権の処分

抵当権などの担保物権には、それが担保権として目的物件の換価代金について優先弁済権が認められるとともに、目的物の換価権がそのおもな権利の内容となっています。そしてその権利の特質としては付従性、随伴性、不可分性、物上代位性、追及性などが認められています。そのうち随伴性とは、担保物権はその被担保債権が債権譲渡などの原因に基づいて第三者に移転しても、債権の同一性が認められる限り、特約を要せず当然に担保権も随伴して移転し、債権とともにその負担に服することをいいます。約定担保権である抵当権については、当事者が特定の債権を担保する意思の下に設定されたものであるため、当然の法律的性質ということがいえます。その意味から抵当権は、その被担保債権の処分により抵当権も処分されることになるのです。しかし、これは担保物権一般の原則であって、抵当権については、原則の例外としてその担保権自体のもつ財産的価値権を認め、抵当権をその被担保債権から独立して取引の対象とすることが認められ、それ自体の処分も認められています。これは一面においては、抵当権はその被担保債権を担保することにおいて存在するという付従性の原則の例外であり、被担保債権と離れて処分し得ることにもなるのです。ただこの場合においても、その後もその原被担保債権による拘束から一切離脱するものでないため、付従性が完全に失われてしまうわけではなく、むしろ付従性の緩和と考えられています。この点ドイツ民法においては、今一歩独立性が強められていますが、日本の民法ではむしろフランス民法に近く、民法三七五条の処分が認められているにすぎません。なお、根抵当権についてはこれとは別に判例により、債権者や債務者の地位の承継による完全な抵当権の移転が認められており、その独立した処分として譲渡が認められているので注意を要します。

スポンサーリンク

不動産

抵当権の移転の態様として、現在認められているものに次の八つがあります。
債権者の変更。被担保債権の債権譲渡や代位弁済、債権者の相続、合併、ならびにその被担保債権の転付命令などによる債権者の変更による抵当権の移転です。
被担保債権に対する処分。被担保債権が第三者のために質入された場合とか第三者によって差し押えられた場合、または更改になった場合も、抵当権の移転は生じませんが、その処分に抵当権も従うことになります。
債務者の変更。被担保債権について債務引受けがあったり、その債務者の相続、合併などがあり、債務者に変更が生じた場合も、抵当権は原則として移転します。
転抵当。抵当権をその被担保債権から離れて、抵当権者が第三者に対する債務の担保に利用することです。
抵当権の譲渡。抵当権者が自己のもつ抵当権を、その被担保債権に対する他の無担保権者に譲り渡すことです。
抵当権の放棄。同じく抵当権者がその無担保権者に自己の優先弁済債権を放棄し共用関係になることです。
抵当権の順位の譲渡。先順位抵当権者と後順位抵当権者が順位の交換をすることです。
抵当権の順位の放棄。先順位抵当権者と後順位抵当権者が互いにその優先順位を主張せず、同順位となることです。
抵当権の被担保債権が債権譲渡などによって第三者に移転すれば、前述の随伴性の原則から抵当権もその譲受人に移転します。しかし、これは随伴性によって移転するものであって、民法三七五条による抵当権の処分ではなく、同条の規定の適用のないことはいうまでもありません。
抵当権の被担保債権が移転する場合に、債権譲渡のほかに、保証人などの代位弁済代位を認められた第三者弁済債権者の相続開始合併などがあり、強制譲渡してその債権が転付された場合もあります。これらの場合には、その債権は同一性が維持されるので原則として抵当権も新債権者に移転します。ただし、その場合でも、債権譲渡の場合に特に新債権者に抵当権も移転させない特約をすれば移転しないのは当然です。この場合には付従性の原則から、抵当権は担保すべき被担保債権が存在しなくなるので消滅します。抵当権がこの随伴性によって移転した場合には、旧抵当権者はその抵当権について抵当権移転の登記義務を負うことになり、このことは債権の一部譲渡のあった場合も同様です。債権譲渡手続は、民法の一般原則によって譲渡人と譲受人との譲渡契約によって行なわれ、別に対抗要件の手続が必要となります。法定代位権者である保証人が主債務者に代わり代位弁済した場合は、単に弁済することによってその被担保債権は弁済者に移転しますが、抵当権については代位の登記をしないと移転の効果が発生しないことがあります。これは民法が「予メ」代位の登記をしないと目的物件の第三取得者に代位せずとしているからです。しかし、この「予メ」とは、その目的物件について第三取得者の発生する以前であれば、「予メ」でなくとも代位登記をすることによってその後の第三取得者に対抗できると考えられています。その点法定代位権者以外の者が、主債務者に代わり第三者弁済をしたのに対し、債権者がその抵当権に代位することを承認した場合も同じです。ただし、この場合は債権譲渡の場合に準じた対抗要件と、法定代位の場合の抵当権の代位登記が必要になりますが「予メ」である必要性はありません。債権者の意思に基づかず、法律上当然にその債権が移転し、それとともに抵当権が移転する場合として、債権者の相続開始と合併、ならびに強制執行手続としての転付命令があります。相続、合併の場合は、それらの手続が完全であれば、なんら債権移転ならびに抵当権移転の対抗要件を備えなくとも法律上当然に新債権者に抵当権が移転し、新債権者は旧抵当権について抵当権移転の登記を請求する権利が認められます。その点転付命令においても同様ですが、この場合は、転付命令とともに嘱託による登記も可能だという説もありますが、一般にはやはり申請によらざるを得ません。しかし、判決または相続、合併のような一般承継の場合には、新債権者の単独申請によって変更登記が申請できるとされています。
抵当権付債権の譲渡の対抗要件としては、債権についての第三債務者への通知、または第三債務者の承諾と、その通知書または承諾書に対する確定目付が必要であり、抵当権については変更登記が必要です。単に抵当権について変更登記しただけでは、その債権譲渡が対抗できない債務者、第三者に対しては、抵当権の移転すら対抗できません。ただし、抵当権移転の原因証書として添付した書類に、債務者も承認し、かつその証書に登記所の登記済印と日付があれば、それで債権譲渡の対抗要件を備える結果になることがあります。債権についての対抗要件を備えない抵当権の移転登記によっては、抵当権実行の申立てをしても債務者その他の利害関係人から異譲の申立てがあれば、手続きは進行せず、たとえ競売手続が完了していても、その手続は無効となります。その点転付命令の場合には、登記だけあれば足ります。ただし、債権譲渡は譲渡人と譲受人の契約のみによって効力を生じ、その通知、承諾は債務者に、確定日付は第三者に対する対抗要件にすぎないため、その対抗要件の備わる以前に他の者に譲渡されたり差押えがあれば、それらの者に対抗できず、債務者が旧債権者に弁済すれば抵当権移転の効力も失いますが、それ以外の場合であればたとえ通知承諾がなくとも抵当権実行は有効です。しかし、この競売は競落になってからでも、対抗要件の不備を主張し得るものはその無効を主張し、所有権の移転を失効せしめることができるので注意を要します。要するに、抵当権の移転は債権譲渡に随伴するものであるため、その登記の前後によって優劣が決まるのではなく、被担保債権譲渡の対抗要件の前後によって優劣が決するのです。なお、被担保債権の譲渡による抵当権の移転も、物権に関する変動であるため、これを第三者に対抗するためには、抵当権移転の登記が必要であることはいうまでもありませんが、債権譲渡はその債権の同一性を維持しながら、その債権が譲受人に移転するだけのことであるため、抵当権の設定登記さえ完了していれば、その抵当権について移転の登記がなされていなくとも、抵当権の対抗要件としての効力が失われるわけではありません。ゆえに抵当権がその被担保債権の譲渡によって譲受人に移転した後で、その変更登記前に目的物件が第三者に譲渡されても、また後順位抵当権が登記されても、それらの者にその抵当権で対抗することは可能です。また登記実務でも、それらの者の同意なくしてこの変更登記が認められ、付記登記されています。しかし、抵当権がそれらの者に対し対抗できるものであっても、抵当権の移転ということを第三者に対抗するためには、抵当権移転の登記が必要であり、その登記ができていなければ、譲受人の申立てによる抵当権実行はもちろん、目的物件の競売、公売に参加するとか更生担保権などを主張するためには、その変更登記をしておかなければなりません。
保証人など法定代位権者が弁済したことにより抵当権に代位した場合には、債権については前述のとおり特に対抗要件としての通知、承諸は必要ではありませんが、抵当権については「予メ」代位の登記をしないと、代位弁済後の貫的物の第三取得者には代位権が認められません。したがって、保証人が代位弁済しようとするときは、まずその物件に「代位権保全の仮登記」をしたうえで代位弁済し、その後弁済した後にその仮登記の本登記をする必要が生じてくるのです。しかし、通説はこの「予メ」とは、弁済によって被担保債権が消滅していると信して目的不動産を取得した者の利益を保護する趣旨であるため、必ずしも「予メ」であることを要せず、第三取得者の生じる前であれば、それからでも有効であるとしています。

不動産

抵当権の処分/ 被担保債権に対する処分/ 抵当権順位の譲渡と放棄/ 抵当権順位の譲渡と放棄の方法/ 共同抵当/ 共同抵当の意義と成立要件/ 共同抵当権の実行と配当/ 根抵当/ 包括根抵当/ 根抵当権の特質/ 根抵当権確定の効果/ 根抵当権での極度額の意義/ 根抵当権の極度額の定め/ 根抵当制度の誕生/ 根抵当の被担保債権の特徴/ 被担保債権となしうる債権/ 根抵当権の確定と効果/ 根抵当権の確定事由と時期/ 根抵当権者の相続合併と確定/ 根抵当権確定請求/ 根抵当権の全部譲渡/ 根抵当権の分割譲渡/ 累積式根抵当権/