仮処分中の不動産の売買

仮処分は、権利者が将来訴訟において勝訴した場合に、その執行を確保するための制度です。係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分があります。不動産売買において間題となるのは、前者がほとんどです。係争物に関する仮処分としては、処分禁止の仮処分と占有移転禁止の仮処分が不動産をめぐる紛争において一般的に利用されています。前者は、仮処分債務者の処分を禁止することにより、また、後者は、仮処分債務者の占有移転を禁止することにより、いずれも、仮処分時に権利関係を固定し、将来の執行を碓保するとともに、訴訟上の当事者を恒定するためのものです。なお、登記簿上の順位を確保する制度として、仮登記仮処分の制度があります。これによっても、登記順位の保全の方法として、処分禁止の仮処分と同一の目的を達成することができます。
処分禁止の仮処分命令は、一般原則に従い債務者に送達されるほか、登記簿に禁止命令を記入してなされます。したがって買主は、目的不動産の登記簿を閲覧すれば、仮処分の有無がわかります。
占有移転禁止の仮処分命令は、様々な態様がありますが、通常では執行官保管にしたうえ、債務者にその使用を許す態様が多くなっています。この場合の執行手続は、命令を債務者に送達し、その公示のために適切な措置がとられます。執行官保管にしてある旨の公示札が立てられるか、公示書が貼付されるのが通例です。

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仮処分の買受人に対する効果は、仮処分の種類によって同一ではありません。最も多い仮処分である処分禁止の仮処分では、大審院の判例は、はじめ、いわゆる絶対的効力説をとりました。この立場では、仮処分の登記以降になされた処分行為は、一切無効であるとされた登記実務も、かつては、この立場にたち、仮処分以降の処分行為の登記は受理されませんでした。しかし、その後に判例及び登記実務とも変更し、処分は対債権者との間にのみ相対的に無効であるとされ、移転登記も受理されることになりました。したがって、処分禁止の仮処分の登記がなされている不動産を買受けた場合にも、その旨の移転登記をすることができます。
買主はその買受けの登記をすることができますが、その登記は債権者の被保全権利に対抗することはできません。現在の登記実務によれば、仮処分債権者が本案判決で勝訴したり和解等により債権者に所有権者登記をする際には、その申請と同時に、仮処分後の登記の抹消を債権者が単独ですることができます。したがって、買主は仮処分債権者の登記に低触するかぎりにおいては、自己の取得登記が一方的に抹消されることを覚悟しておかなければなりません。もっとも現在の判例の立場には、仮処分債権者の仮処分をした被保全権利にのみ対抗できないにすぎません。この立場によれば、仮処分債権者の被保全権利が所有権の取得に係る場合には、買受人の所有権は仮処分債権者に対抗できませんが、賃借権、抵当権のように所有権と接触しない場合は、買主は、かかる負担を覚悟すればよいことになります。このように、処分禁止の仮処分が買受人の権利にどのような影響を及ぼすかは、正確には、その被保全権利がどのような権利であるかを知らなければなりません。
占有移転禁止の仮処分のなされている不動産を買受けた者は、どのような負担を負うかでは、占有移転禁止の仮処分の効果をどのように解するかによって違ってきます。また、占有移転禁止の仮処分命令が具体的にどのような文例によって出されているかによっても異なります。現在の裁判実務で最も多い文例は、債務者の別紙物件目録記載の不動産に対する占有を解いて○○地方裁判所執行官に保管させます。執行官は、債務者にその使用を許さなければなりません。ただし、この場合においては、執行官は、その保管に係ることを公示するため、適当な方法をとらなければなりません。債務者は、この占有を他人に移転し、または、占有名義を変更してはならないのです。
このような文例における仮処分においては、不動産の所有者は、不動産を売却しても、その引渡しをすることは禁止されています。しかし、この禁止命令の効果の及ぶ範囲については、問題が多く、かかる仮処分命令にもかかわらず、売渡人が不動産を買受人に引き渡した場合はどうなるかについての点については、かつては、点検排除といい、保管している執行官が自己の権限として、そのような買主を実力をもって排除できるという説もあり、執行実務も、これに従った取扱いもなされてきました。しかし現在の通説では、このような取扱いは、仮処分の目的を超えるものであり、違法であるとしています。執行実務も現在では以前のような点検排除は行なわれません。この立場によれば、引渡しをうけた買主は、直ちに明渡しを求められることはありません。ただ仮処分債権者は、買主に占有が移った後も、売主に占有があるものとして、不動産の引渡しまたは明渡しを求めることができます。そして仮処分債権者が、本案判決で勝訴し、仮処分債務者に対する明渡し、ないし引渡しの債務名義を得れば、買主は明渡し、あるいは引渡けを甘受しなければなりません。
なお、買主は、違法な仮処分に対しては、異議の申立てをし、さらに、本案について審理を急ぎたいときは、起訴命令の申立てができます。買主は売主が起訴期間を徒過した場合、または事情が変更した場合には、仮処分の取消を申し立てることができます。

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